

社員は財産!地道に育んだ信頼!その秘訣と成果(NSK株式会社)
「社員は会社にとっての宝であり、社員ひとりひとりが健康でなければ会社の発展はありえない。」という強い想いを掲げ、10年以上にわたり健康経営を実践し続けてきたNSK株式会社。その実践的な手法を紐解き、企業が大切にしている考え方から、全社員一丸となって業績に結びつけるまでの秘訣を伺ってきました。

NSK株式会社:左から順に 新田 斉士さん(代表取締役社長)、菊地 公信さん(管理本部執行役員本部長)、坂本 武治さん(総務部人事課長)
1.全国展開の原動力は、「自分たちの会社」という全社員の想い
――御社は別の会社がスタートだったと伺いましたが、そこから独立した形だったのでしょうか?
新田さん:当社のスタートは、当時全国のスーパーや百貨店のPOSシステムを製造販売している外資系企業の日本法人において、POSシステムの設置を担っていた施設管理部門の社員たちが退職し、その退職金を出し合って創業した日本施設工業という会社となります。
――社員たちがお金を出し合って創業したので、会社への想いも強いということですね。
新田さん:社員全員の退職金を資本金にしたことで、自分たちの会社だという想いは人一倍強かったと思います。
創業時の社員はもう残っていませんが、自分たちの会社だと想うDNAは、現在も色濃く残っていると思います。

――前身が全国規模の市場を扱っていたので、今も日本全国に営業所をお持ちなのですね
新田さん:全国展開しているスーパーや百貨店が顧客なので、顧客独自のインフラ設備を整えるのもかなりの規模になります。そのインフラ整備を創業当時から当社が請け負ってきたので、全国に営業所があります。お陰様で取引先企業も今では700社以上となります。
――現在は文具やオフィス用品で有名なプラスグループの傘下ですが、経営面の影響は受けているのでしょうか?
新田さん:M&Aでプラスグループになりましたが、経営陣がガラッと変わることはなく、比較的自由に経営を行っています。当社独自の文化や考え方が変わらなかったので、辞める社員もいませんでした。また、社員の評価も当社独自の基準で行なっており、自分たちの会社という意識とやりがいを感じながら働いてもらえていると思います。
――経営において社員を大切にする方針に舵を切ったのは何かきっかけがあったのですか?
新田さん:実は売り上げが伸び悩んだ時期があり、その時に改めて社員は財産で、第一優先でなければならないと思ったのです。そこから社員の満足という観点を突き詰めた経営をしなければならないと考え、社員の健康第一でスタートすることにしました。
今では健康経営優良法人ブライト500だけではなく、安全衛生優良企業・えるぼし・けんぽれん「銀の認定」・スポーツエールカンパニー2025の認定を受けるほどになりました。
社員は財産で、一番大切にしなければいけないという強い想いを継続した結果、さまざまな健康経営に関する優良企業の認定を取得することができたと感じています。
これらの認定を受けるには、それ相当の労力が必要となるため、取り組む企業が増えていないのか、認定数が減ってきているようです。
でも、私は社員のことを第一に考えて、これからも力を入れて取り組んでいきたいと思っています
2.自発的なやる気は仕組み化で発動!?
――社員のモチベーションを上げる仕組みがたくさんあると伺いました
新田さん:まずは資格手当が充実しているという点です。基本給を上げることも必要ですが、自分の努力次第で給与が上がる仕組みを充実させることにしました。
1級建築士などの難易度が高く、業務にも直結する資格は一時金として30万円を支給するとともに、毎月資格手当も支給しています。また、民間のマイクロソフトのスペシャリストやTOEICなども毎月の資格手当の支給対象です。資格手当の対象となる資格の数は157あります。
月額の資格手当の上限は3万円ですが、満額の場合、年間給与収入だけで36万円アップするので、努力のしがいはかなりあると思います。
その他、福利厚生の一環として、29歳までの若手社員全員を対象とした医療保険に入っています。一般の医療保険と同様、病気になったり、入院したりした場合に一時金が支給されます。30歳以降は、希望すれば自分で掛け金を支払ってその保険を引き継ぐこともできるようにしています。
また、福利厚生とは少し異なりますが、昨年は28歳までの若手社員の交流会を四半期ごとに行いました。交流会後の飲み会の写真を見せてもらいましたが、みんな普段は見せない生き生きした顔で楽しんでいましたね。

――社員同士のつながりも意識していらっしゃるということですね
新田さん:制度のひとつに、新入社員が相談しやすい環境を作ることを目的としたファミリー制度があります。
会社の中に「お父さん・お母さん・お兄さん・お姉さん」の役割を担う社員をつくり、上司以外に相談できる相手として、4人の家族が新入社員のフォローをするという制度です。「お父さん・お母さん・お兄さん・お姉さん」は、職歴が短い人や長い人それぞれから選ばれているので、多角的にフォローができると思っています。
ファミリー制度は、若手社員の流出を防ぎたいという気持ちから、生まれたものです。新入社員をフォローする体制を厚くすることで、辞める人を少なくしたかったのです。
その他にもさまざまな制度がありますが、働き方改革プロジェクトの一環として作られた「NSKポイント」という制度があります。
例えば、「資格を取る活動」に対して受講した時と合格した時にポイントを付与したり、「社内のイベントに参加」した時にポイントを付与したりする仕組みです。1年間貯めたポイントは、2月の業績賞与に上乗せして支給します。1ポイント1,000円で、上限が50ポイントなので、最大5万円が支給されます。
また、誰かに感謝を伝える「サンクスポイント」もNSKポイントの付与対象となっています。社内のシステム内に感謝を伝える掲示板を作り、そこに投稿することで誰でも見ることができるようにしています。目に見える形で感謝を伝えることで、社員同士の交流やつながりも深まってきていると考えています。
――他にも社員のモチベーションを維持するために気を配っていることはありますか?
新田さん:一番社員のモチベーションが上がるのは、やはり賞与だと思います(笑)。
当社は業績連動賞与なので、予算を達成したらしっかり社員に還元するということを徹底しています。過去には業績が落ち込んで、賞与が十分だせなかったことがあります。その経験から、しっかり社員に還元しなければならないという考えが根付いたと思っています。
社員を第一に考えるなら、稼いだ分はしっかり社員に還元するスタンスを崩してはならないというのがわたしの考えです。
若い世代を大切にする仕組みを作りながらも、当社は「ダメならそれをやめればいいだけなので、まずはチャレンジを」というスタンスであり、社員にはどんどんチャレンジすることを推奨しています。
このような環境に身を置いていれば、社員は失敗を恐れることなく、いろいろとチャレンジするようになり、それが成果にもつながっていくと考えているからです。そのためのフォロー体制など社員を支援する環境は、会社が作らなければならないという意識を大切にしています。
3.業績の根幹は「ひと」
――御社は顧客のリピート率が良いと伺いましたが、秘訣はあるのでしょうか
新田さん:やはり真面目で丁寧な仕事を心がけている社員の力が大きいと考えています。
当社が請け負っている配線等の工事は目に見えないところで施工するので、お客様には伝わりにくいのが実状です。そのため、問題が発生することが無いようサポートをしっかり行っています。その対応を評価いただいたお客様から次回も当社に発注しようと思っていただけているのだと思います。
データセンターの機械の配線工事における顕著な例をあげてみましょう。データセンターにはたくさん機械が並んでいて、コードもたくさん出ています。そのセンターの半分の施工を他社、あとの半分を当社が請け負いました。工事が終わった後に見比べると、他社のエリアの配線は乱雑でしたが、当社が担当したエリアの配線はきれいにまとめられており、お客様から褒められたことがあります。
そういった真面目で丁寧な仕事を積み重ねてきたからこそ、今の業績につながっているのだと思います。
――社員の仕事に対する姿勢などから、お客様の信頼を得られたと
新田さん:もちろん、大きな金額の受注は安定していただいていますが、10万円・20万円・50万円のような細かい仕事をしっかり行って、その後に大きな仕事につなげていくというのが、私たちのビジネススタイルでもあります。
そうした細かい仕事をしっかり誠意のある姿勢で取り組み続けることで、お客様の信頼を得ていると思っています。

――社員教育の賜物でしょうか?秘訣などありましたら教えてください。
新田さん:健康経営の手法にもなるのですが、いろいろなマニュアル等を刷新して、教育をしているのが大きいと思います。
建設業なので、安全第一、人の命が第一優先という考えは従来からありますが、次第に安全だけではなく、衛生も大切、健康も大事と考えるようになりました。
そこから、毎月の安全衛生委員会における衛生関連の議題の充実、衛生関連のマニュアルの整備を図るようにしました。
また、安全宣言、職長教育、安全衛生責任者教育、フルハーネスの教育など、徹底して教育には力を入れています。
――300を超える施工パートナー企業とも安全衛生の教育等は共有しているのでしょうか?
新田さん:施工パートナー企業に対する安全衛生の情報共有のため、日々の安全衛生活動の取り組みを説明するための安全のチラシ、安全施工ハンドブックを配布し、毎年6月に開催する安全大会には、施工パートナー企業にも参加してもらっています。
――関わる方すべてに誠実であったからこそ、社内だけでなく社外の人にも協力してもらえる体制が整えられたのですね
新田さん:主要な施工パートナー企業と当社の社員で安全について協議するための施工パートナー協議会も開催しています。はじめは東京だけでしたが、今では大阪の施工パートナー企業にも波及しています。
その他、6年ほど前からCS向上委員会を設置しています。
CS向上委員会では、お客様に褒められた内容や、社員が普段どのような対応に気を配っているのかなどの情報を集めて、委員会メンバーで内容の検討を行いメルマガ等で紹介しています。また、お客様アンケートを年に1度実施し、お客様からいただいたお褒めの言葉の中から、対応が優秀であった社員を表彰するCS賞を設けています。
これらの活動を通じて、社員がしっかり評価されていると感じてもらえる仕組みをこれからもたくさん作っていきたいと思っています。
4.「むすぶ」は未来に掲げるスローガン
――御社の理念には「人と人」「人と空間」「人と未来」をむすぶとありますが、業務内容からのものだけではないということでしょうか?
新田さん:当社は電気通信工事やネットワーク設計・構築などを業務として行っているので、業務としてお客様のインフラやオフィス、人の導線などを直接むすぶ仕事をしています。
そして、仕事を通じて、人との絆を大切にしてむすぶということを常に念頭に入れています。

私は経営者としてさまざまな問題にぶつかったときに、「はたしてこの決断は社員のためになるのか」ということを判断材料の1つとしています。
社長として、もっと会社を良くしたい、もっと社員が生き生きと働くことができる環境を作りたいと思っています。
そのために、理念にある「むすぶ」をキーワードに、いろいろな活動を見える化して評価し、社員が豊かさを実感できる会社にしたいですね。それこそが私がNSKにできる恩返しだと思っています。
取材後記

株主・経営陣が変わるピンチを乗り越えるため、社員が経営陣になるという決断をしたNSKさん。自分たちの会社であり、社員同士が仲間という意識がとても強いと感じました。
社員を仲間と見立てた時、お互いに何が貢献できるのか、試行錯誤を繰り返した結果が、NSKさんらしい施策として展開されています。ネットワークの配線工事は完成すると床下に隠れる縁の下の力持ち的な地味な仕事として見られがち。
しかし、そのような仕事に誇りをもち、社員同士でその頑張りを讃えあい、数多くのパートナー企業も巻き込んで、繋がりを強固に拡大していくあり方は、まさにIKIGAI経営です。
「むすぶ」という理念と共に、日頃の取り組みの成果が業績にもつながっていると体現した会社といえるでしょう。
【企業データ】
会社名:NSK株式会社
事業内容:電気・通信設備、内装設備、その他設備全般の企画・設計・施工・ネットワークの企画・設計・構築・保守・監視業務・カメラシステム、入退室管理システムの企画・設計・構築・オフィス移転・新設に伴うレイアウト設計、デザイン
所在地:東京都千代田区九段南2-3-1 青葉第一ビル
資本金:10百万円
社員数:276名(2025年4月1日現在)