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【働きがいインタビュー】人生もキャリアも、自主自立の自分軸で切り拓く「生涯現役」の哲学(エア・ウォーター株式会社 田中真子)

多様な価値観が求められる現代において、「自分らしく働く」ことの意義はますます大きくなっています。今回、私たちは自らの意志と情熱を原動力に、キャリアを切り拓いてきた田中まこさんにお話を伺いました。彼女のユニークな人生哲学と、仕事への深い愛情が掛け合わさることで起こす働き方の化学反応は、多くの読者に新たな視点と、自分らしい生き方を見つけるヒントを与えてくれるでしょう。

エア・ウォーター株式会社:田中 真子さん(グリーンイノベーション開発センター長)

1.型にはめない選択がわたしのマイルール

――本日はありがとうございます。まずは改めて、自己紹介をお願いできますでしょうか。

田中 真子さん(以下、まこさん):はい、田中真子と書いて”まさこ”と言います。周りからは「まこ」と呼ばれています。現在、エア・ウォーター株式会社で10数年ほど勤務しており、入社以来ずっと総合開発研究所で技術開発に携わっています。

――ありがとうございます。まさに理系一筋のキャリアは「リケジョの華」という印象です。 幼い頃から、今の仕事につながるような夢や、理系に進む明確なきっかけがあったのでしょうか?

まこさん:私が今のように働く根本には、母の存在があります。母は当時としては珍しく、私が生まれてからもずっと仕事をしていました。小学校の先生をしていて、自分の思ったことをやりたい、というタイプでしたね。父も先生だったのですが、母は家にとどまることなく、海外での研修に3週間行くような行動力のある人。 子どもの頃は、母が構ってくれなくて寂しいと思うこともありましたが、大人になるにつれて、自分の好きなことをしている母が「キラキラしている」と感じるようになりました。ストレスを抱えず、自由に自分を表現することが当たり前なんだ、という価値観が自然と私の中に根付いていったのだと思います。

――価値観形成においてお母様の影響が大きかったのですね。まこさんご自身の、理系につながる体験はありましたか?

まこさん:小学校の頃、人と同じことをするのがとても嫌で、自由研究では「ゴキブリ」と「カメムシ」という、誰もやらないようなテーマを選びました。私はゴキブリの研究を小学校4年生から4年間続けたんです。その経験が、理系のきっかけの一つになったかもしれませんね。

――それはユニークですね!高校で理系を選ばれたのは、やはり得意だったからでしょうか。

まこさん:正直に言うと、文系の女性の集まりが「ちょっと苦手だな」と感じたのが大きいです。数学は得意でしたが、積極的に理系に進みたいというよりは、消極的に「この中に入るのはちょっと嫌だ」という理由で理系に進みました。 女性特有の密な関係性が苦手で、自由を大切にする理系を選んだ、というのが正直な気持ちです。

――なるほど、それは意外な理由ですね。そういった経験が、今のまこさんのタフさに繋がっているのでしょうか。

まこさん:明確に意識したかは分かりませんが、無意識に刷り込まれていたのだと思います。「私は将来絶対に働く、働かないという選択肢はない」と。それはもう「キラキラするから働く」という感覚です。 私の実家はお寺で、仏教的な考え方も影響しているかもしれませんが、基本的に「自分の人生は自分のもの」という考え方が根底にあります。自分が楽しくしないと誰も楽しくしてくれるわけがない、という母の姿を見て、それが当たり前だと感じたのでしょうね。

――お母様も、校長先生になるという目標を達成された方なのですね。 ご自身のキャリア選択において、大学選びから就職活動まで、どのような経緯を辿ったのでしょうか。

まこさん:大学では、当時流行していた環境問題に興味があり、工学部の物質工学科に進みました。しかし、大学時代は正直ほとんど勉強していません。毎日学校には行っていましたが、今思うと全く勉強せずに大学院まで卒業してしまいましたね。 人間は自分が必要だと思わないと勉強できない、と今では思います。ただ、その代わりに友達とのコミュニケーションなど、勉強以外でとても楽しい6年間を過ごしました。

そして就職活動ですが、これもまた「決められたレール」のように感じて嫌でした。同じようなスーツを着て、同じ方向に流れていくような感覚に抵抗がありましたね。でも、いざ始めてみると、意外と面白くて、「こんな会社があるんだ」と新しい発見もありました。

当時付き合っていた彼氏が長野にいたので、長野で働きたいという漠然とした思いがあったのですが、B2C(消費者向け)の企業は苦手で、B2B(企業向け)のメーカー、特に大きなプラントを扱っている企業に惹かれました。エア・ウォーターは、インフラ系の会社で「強そうだな、潰れなさそうだな」という理由で入社しました。

――就職活動でもまこさんらしさ全開ですね!就活中の学生さんたちに何か一言、声をかけてあげられるとしたらいかがでしょうか?

まこさん:今の学生さんたちは、企業研究や自己分析にとても時間をかけ、勉強熱心で素晴らしいと思います。しかし、私自身は「どこに入るか」よりも「入ってどうするか」の方が重要だと感じています。優秀な人ほど、どの企業に行っても活躍できるという考えを持っているので、企業との出会いは結局のところ「縁と運」によるところも大きいと思います。

学生は「内定を取ること」をゴールにしがちですが、そこからが本当のスタートです。結婚と同じで、未来はそこから始まる、という視点がもう少しあると良いなと感じますね。

2.「無理かも」からの開き直りがキャリアの転機になる!?

――エア・ウォーターさんに入社されてからのキャリアについて教えてください。特に、困難に直面したことなどあれば、そのときの乗り越え方など伺ってみたいです。

まこさん:入社当初は大変でした。大阪の工業団地近くに住んでいましたが、排気ガスが部屋まで入ってくるような環境で、「なんやこれ!」と。 研究所の同期や先輩は、とても有名な大学を卒業された方ばかりで、勉強してこなかった私は「全然わからんし」と一時期かなり落ち込みました。仕事も1ミリも役に立てていないと感じ、1年目の終わり頃には唯一、「無理かも」と、転職を考えるほど追い詰められました。

でも、「もう無理、どうしよう…」とどん底まで落ち込んだ時に、「もういいや、やれることやろう」と開き直ることができたんです。そこから今の気持ちに変わり、このまま気持ちはずっと変わっていません。

――とても素敵ですね。きっかけとなった人や機会などがあったのでしょうか?

まこさん:はい、そこから立ち上がった時に、メンターとなる方との出会いが大きかったです。私の目指したい姿であり、尊敬できる男性の上司でした。その方は、男女関係なく機会を与え、平等に叱ってくれる人でした。女性だから、という扱いはなく、「アホボケカス!」というような、ある意味フラットな世界観で接してくれましたね。 できないことはできないと怒るけれど、できることは褒めてくれる。そのような経験を繰り返しながら、成長できたと感じています。

――まこさんの職場では、男女間の差を意識することなく働けているのですね。

まこさん:社会全体はそうではないと理解していますが、私自身が「自分はそうされたら嫌だ」と思うので、自分はそうしない、というだけです。 エア・ウォーターの技術部門は、男性だから女性だからという前提がなく、「できているか、できていないか、どうなんだ」という技術が前提にあるので、性別よりも能力が先に評価されます。 私が高校時代に「女子の群れが嫌だ」という理由で理系に進んだことが、結果的にこのフラットな環境で働くことに繋がっているのかもしれませんね。

――具体的なお仕事内容としては日頃どんなことをされているのでしょうか?

まこさん:エア・ウォーターは産業ガスの会社です。馴染みがないかもしれませんが、例えばポテトチップスの中の窒素ガスや、病院で使う酸素ガスなど、私たちの身近に存在しています。 これらは身近な空気を原料に、圧力をかけて液化し、分離する技術を使って作られています。私は空気から酸素や窒素を分離するなどのガス分離技術の開発をずっと担当していました。

――特に印象に残っているプロジェクトはありますか?

まこさん:5年目の時に、とある日本の大手製鉄会社から「一酸化炭素を含むガスから、一酸化炭素だけをきれいに取り出してほしい」という依頼を受けたプロジェクトが、大きな転機となりました。 かなり特殊なガスで難しかったのですが、数億円規模のこのプロジェクトで、実質的なプロジェクトリーダーを任せてもらいました。上司のサポートはありましたが、全て自分でやらせてもらい、現場で課題に直面しながら一つ一つ乗り越えていくことの面白さを知りました。

――それは初めてのマネジメント経験でしたか?

まこさん:正式なプロジェクトリーダーとして任命されたわけではありません。開発チームが約3人、他に設計や建設を担当するエンジニアリング部門のメンバーもいて、それぞれの部門が連携する中で、自然と私が物事を判断する役割を担うようになりました。 現場で困った時に上司に電話すると、彼はきっと全て分かっているのに「現場で判断したのなら、現場にいるあなたが一番分かっているのだから、それを信じてやってみなさい」と言ってくれました。そのような上司と出会えたことが、とても大きかったですね。

――そういった経験を通じて、会社への信頼や仕事への「好き」という気持ちが深まっていったのですね。

まこさん:そうですね、会社を「好き」だと思っています。会社が受け入れてくれると信じている、という感覚かもしれません。私がパワーダウンして子育てに重心を置いても、逆に「もっと加速したい」と言っても、会社は社員一人ひとりが選んだことを尊重してくれる、という風に感じています。 会社は人が作っているので、どんな人と出会えるかがとても大切だと、改めて感じています。

――5年目のプロジェクトを機に、リーダーシップを発揮する機会が増えたのですね。

まこさん:はい、あのプロジェクトが楽しかったので、「こういう仕事をもっとやりたい」と行動していたら、自然とそうなっていきました。 その後、結婚や出産も経験しましたが、出産で1年間休んだ時も、時短勤務は自分には向いていないと思いました。 私は仕事が好きなので、7割などの時間のかけ方が自分では分からないんです。最初から「フルで働こう」と決めていたので、周囲の理解と協力を得て、実現しました。

3.ロールモデルもカスタマイズ!生涯現役を叶える自己更新術

――ご自身の働き方を語る上で、ロールモデルや先輩の経験をどのように捉えていますか?

まこさん:ロールモデルはあまり意識していません。 事例を作ることは大切だと思っていて、例えば、私が時短勤務ではなくフルタイムで働くことを選んだのも、一つの事例になればいい。3年休んでもいい、という事例があるように、好きなように選ぶ選択肢が増えたらいいなと考えています。 誰かの良いところだけを集めて、自分のロールモデルをカスタマイズするぐらいがちょうどいいのではないでしょうか。価値観やバックグラウンドが全て同じ人なんていませんから。

――まこさんにとって「働く」こと、あるいは「働きがい」とはどのようなものでしょうか?

まこさん:私は「成長」や「新しい発見」が大好きで、仕事においてそれが楽しいです。ただ、「楽したい」という言葉の意味と「楽しい」とは違っていて、できないことができるようになる、という成長の喜びは、人間にとって根源的な喜びではないでしょうか。 常に昨日より今日が成長している、という感覚を大切にしています。

そして「会社に依存した成長」ではなく、「自立」も非常に重視しています。

自立の「リツ」は「律する」ではなく「立つ」方で、自分で決めて、自分で行動し、自分で責任を取る。 それはメンターの方から教わったことでもあります。自由と責任はセットであり、その方が人生は面白いし、できることが広がると考えています。 私の周りの上司や同僚も「これをしなさい」というミニマムなマネジメントはほとんどありません。「お客さんのところに行ってきます」と勝手に話を進めて「こんな話があるんですけどどうですかね?」と聞いてくるような、自分の発想で自由に動ける社風です。 「生涯現役」という考え方をこれからも体現していきたいと思っています。

――まこさんのように、自分の内側からくる楽しさや成長を原動力に、自ら選択し、責任を持ってキャリアを築いていく姿勢は、多くの人にとって刺激になると思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

まこさん: こちらこそありがとうございました。

取材後記

今回の取材では、真子さんの唯一無二の人生観と仕事への向き合い方に深い感動を覚えるものでした。
真子さんの「働きがい」は、まさに「働く・遊ぶ・学ぶ」が全て同一の円で繋がる、人生そのものであると伺えます。そこには収入や承認欲求だけでなく、「成長」や「新しい発見」を何よりも喜びとし、できないことができるようになることに大きな活力を得ている姿がありました。
幼い頃から見てきたお母様のように「生涯現役」で、常に自身をアップデートしながら楽しみ続ける姿勢は、まさにIKIGAIを人生に持ち続ける姿そのものでした。

【企業データ】
会社名:エア・ウォーター株式会社
事業内容:産業ガスの供給を原点に、各事業領域(・デジタル&インダストリー・エネルギーソリューション・ヘルス&セーフティー・アグリ&フーズ・グローバル&エンジニアリング)で生命や人生に関わるエネルギーや農業・食品等に関連する製品やサービスを展開
所在地:〒542-0081 大阪市中央区南船場2-12-8
資本金:55,855百万円
従業員数:連結:20,348名、単体:571名(2024年3月)

監修者画像

【監修者】熊倉 利和

一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会 代表理事/IKIGAI WORKS株式会社 代表取締役/IKGAI広場 編集長

新卒であさひ銀行(現りそな銀行)に入行後、慶應義塾大学大学院(MBA)を経て、セルメスタに転職、2011年に代表取締役に就任。2021年、IKIGAI WORKS株式会社を設立。
健康経営伝道師として350社と750万人にデータヘルス計画や健康経営のコンサルティングを実施。生きがい・働きがいを持って経営を推進するトップランナーらとのインタビューや講演、イベント開催など健康経営や働きがいの普及啓発に取り組む。今では健康経営、ウェルビーイング、人的資本経営を包含し、「IKIGAI経営」の普及啓発へ公私ともに邁進。IKIGAIオタクとしてすべての社会に「生きがい」を広めることを生業とする。

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