

経営危機から一転、IKIGAI経営へ!ー諦めない意志でつかむ社員との絆と挑戦(三重電子株式会社)
三重県で電子機器やメカトロニクス、健康事業を営む三重電子。社長自ら旗振り役となって、健康経営に取り組んでいます。今回は、三重電子の試行錯誤しながらも、社員の幸福度を上げる工夫や信念、社会をもっと良くしたい想いなどを伺います。

三重電子株式会社:左から順に 早川 潤一さん(管理部部長)、林 雅哉さん(代表取締役社長)、阿部 高志さん(オペレーション本部 生産部資材課リーダー)
1.考え方が変わったのは経営危機がきっかけ
――以前経営危機に陥ったとうかがいました。
林 雅哉さん(以下、林さん):今から10年前ぐらいに、経営危機に陥りました。現在は経営危機から復活して安定もしているので、事業を続けてきて良かったなと感じています。
――経営が厳しい中で、勝算があったのですか?
林さん:顧客が待っていてくれて売り上げがあったので、解散するより事業を継続しようと決断しました。ただ、リストラを行いましたね。

個人資産を会社の資金に回しましたが、それでも社員の何人かに辞めてもらう選択をせざるを得ませんでした。経営危機になって実際に会社が終わってしまったら、我々は家も土地も全て失います。そのため、必死で頑張るしかなかったのです。
――リストラなどを行った経験から、社員のキャリア支援を始めたと。
林さん:そうですね。当時は社員に厳しいことをしたと、今でも反省しています。ボーナスが出せなかったり、給与をカットしたり。そういうつらい思いを社員にさせてしまった反省から、健康経営や社員のスキルアップの支援をしようと考えました。罪滅ぼしのようなところがありますね。
健康経営を数年取り組んできて、今では人材育成などスピードに乗って、うまく整理できたため、取り組んできて良かったと感じています。
「もうあの経営危機のような状況になりたくないな」と心にしみているので、社員育成や健康経営が軌道に乗って安心しています。
――経営危機からの復活の源はあったのでしょうか?
林さん:当時新規事業もあったのですが、リストラをした後に既存事業を従来の4分の3の人数で行う必要がありました。同時期に受注が増えたのですが、その4分の3の人数で問題なく業務がこなせました。そこで、これまでいかにロスしていたか気付いたのですね。
ただ、あまり大きな声では言えませんが、当時の上層部の仲があまり良くなくて、うまく仕事を回せていなかったんです。
また、私もアメーバ経営のうわべだけを真似して失敗しました。事業ごとの細かいコスト配分をすることで、逆に各部門がギクシャクしてしまったのです。
しかし、経営危機という緊急事態だったため、みんなで協力して頑張っていこうとなりました。リストラで固定費を削減して、商品の売り上げが好調だったのが、復活の要因だったと思います。
2.働き方改革を軌道にのせる秘訣とは
――アメーバー経営を実践して社内の風通しが悪くなってしまった時期があったとのことですが、社員の仲が良くなったのはなぜだと思いますか?
林社長:正直に申しますと、管理者が代替わりしたことが大きいと思います。私が入社したころは、昭和の製造業の職人気質な管理者が多かったため、「忙しいのにそんなことやってられるか」のような反発にあうことも多かったです。
しかし、その下の代の社員たちは元から仲が良く、柔軟な考え方ができる世代でした。代替わりして事業の範囲も広がってきたので、みんなで協力してやっていこうという空気感が作れたと思います。

――社員を動かすための仕組みなどはありますか?
林さん:100人に満たない会社ですが、さまざまな委員会を実施して、部門に関わらず横断的なチームがあります。例えば、DX委員会やブランディング委員会などですね。
普段の仕事だけでは、他の部門の部屋に意味なく入っていくのは難しいです。しかし、委員会があることで横断的に行き来ができ、いろいろなコミュニケーションがとれる仕組みができたのではないかと思います。
――健康経営を途中で頓挫する企業も多い中、三重電子では成功している要因はなんだと思いますか?
林さん:若いうちにリーダー経験を積むのを、大切にしていることだと思います。委員会のリーダーは、20代の社員がやることが多いんですよ。プレッシャーはあるかもしれませんが、失敗しても良いよという姿勢を見せておくことで、取り組みやすい雰囲気づくりを大切にしています。
みんなで一緒に考えて何かを行う経験をすると、社内の雰囲気も良くなっていきます。
――委員会などの活動が停滞することはありませんでしたか?
林さん:委員会の活動が停滞することは、特になかったですね。
早川さん:そうですね。若手がリーダーをやる形なので、若い社員が輝いているところがあります。相乗効果で各委員会の活動に競争意識が芽生えて、良い意味で充実していますね。

以前は、本業の方が忙しくて、委員会活動が消極的になった時期がありました。しかし、現在は本業を大切にして利益を出しながらも、プラスして委員会活動や社会貢献も行う良いサイクルができています。社員みんなが、本当に頑張ってくれていると思います。
――委員会では、どのような活動があるのですか?
林さん:例えば昨年は弊社が55周年だったので、キッチンカーを呼んだり、記念グッズを作ったりなど、いろいろな企画を考えて実行してくれました。年度初めにチームの目標を作ってもらって計画を立ててもらい、発表してもらいます。
――委員会活動が部活動のような盛り上がりがあるようですが、うまく回すコツはありますか?
林さん:そうですね。ちゃんと社員を注視することを意識しています。やっぱりやるからには魂のこもった活動にしてもらいたいし、社員の成長につなげたいと考えています。
そして会社全体が良い方向に行くのが、続いている。
そのためにも、しっかり上層部の私達が見ているよという部分がありますね。社長に見られているという、良いプレッシャーはあると思います。

――経営者視点からみると、委員会活動などは労働時間や人的資本を本業以外に割くためカットしたくなりませんか?特別な思いなどはありますか?
林さん:実は突き詰めれば、仕事に対して集中する時間ってそれほど長くないんですね。8時間ずっとキッチリ働いているかというと、実はそうでもない。そのため、必要な業務をギュッと詰め込んで属人化せずに何人かで回せば、余裕が出てくる時間ができるのです。
例えば、明日子どもの入学式だから休むとなった場合、準備をしておけばその日1人いなくても他の人がフォローできます。
そういう体制を日頃から作っておけば、委員会のミーティングが1時間あるからちょっと行ってきますとなっても特に問題はないと思います。
3.三重電子流!ワークライフバランスのとり方
――本業と福利厚生のバランスがとても良いと感じましたが、実現するための信念はありますか?
林さん:やはり事業戦略などのビジネス面では、しっかり勝ちに行くことは大切にしていますね。事業運営をしっかり行ったうえで、無駄な業務オペレーションは削るということを意識しています。
また、これは私の経営者としてのエゴかもしれませんが、職業人として顧客に喜んでもらいつつ、自らも楽しくもしっかり成長してもらいたい気持ちがあります。
――社員の阿部さんにうかがいますが、従業員同士のコミュニケーションはうまくとれてると思いますか?
阿部さん:そうですね、コミュニケーションに隔たりはないと思っています。みんな仲良くさせてもらっていますね。

――働きやすいと感じた実際の例はありますか?
阿部さん:昨年に第1子が生まれて、育児休暇を取得しました。最初は男性が育児休暇を取得することへの不安が大きかったです。しかし、実際に取得するとメリットだと感じることが多かったです。そして、やはりパートナーのケアができたことが本当に良かったなと思います。
また、新たな子育てコミュニティにも参加できて社内で業務以外の話しをする機会が増えました。人間関係がさらに広がったなと感じますね。
今では育児休暇だけでなく、働き方改革の一環として休みたいときに休暇を取得しやすくなったのもライフワークバランスを考えると、とても良いと感じます。
企業のイメージアップにもつながるし、私にも会社にもメリットだと思っています。
――従業員を家族的に見ていて、血が通っているように感じました。健康経営を続ける想いなどありますか
林さん:私は、社員に職業人としての幸せを実現してほしいと思っています。

例えば、10年後のキャリアビジョンはこうありたいなどを考えて、職業人として自立して幸せになってほしい。もし、三重電子では思い描くキャリアが実現できないなら、寂しいですが退職も仕方ないと思っています。
しかし、少しでもチャレンジしたいというなら、三重電子で経験を積んで、どんどん成長していってほしいですね。今も制度はたくさんありますが、今後は取り組みの精度を上げていくのが課題です。
4.将来の野望は社会課題を解決する事業を当てること
――林社長が描く10年後、20年後の三重電子の姿はどのようなものですか?
林さん:弊社は製造業なので技術開発などで社会課題の解決ができ、なおかつ儲かればと。経営理念も「その先の笑顔をつくる」と謳っています。事業内容と社会課題解決がうまく結びついたことが、1発当たればと願っています。
――健康経営をしているからこそ、社会をもっとよくしたいと?
林さん:そうですね。まずは社員が幸せになってほしいので、休みの多い企業の代表になれればと。近々三重県内で、休みの多い企業としての事例発表もします。
三重電子では、3つのアウトプットを大切にしています。
- 1つ目が、価値ある商品・サービスを提供すること。
- 2つ目が、他社さんの参考になるほどの、社内オペレーションや制度に取り組む。
- 3つ目が、さまざまな地域で貢献活動をする。
私たちもいろいろな事例を真似て今があります。真似することで社員や社会がハッピーになれば良いと思っています。
早川さん:そうですね。社員が会社にいたくていたくてしかたがないと思えるような職場環境作りを、とことん実践していこうと思います。
取材後記

三重電子は経営危機に陥った経験を糧にして、社員の満足度を上げるため、健康経営へ舵を切り実践しています。
さまざまな手法を試し、時には失敗もしましたが、現在では社員自ら横断的にコミュニケーションを築く土台となる制度が根付いています。そして、今では三重県を代表して休みの多い企業として社外に発表する機会もあるほど。
今後のビジョンとして林社長は「ビジネスにならない部分が残っているから社会課題」ととらえ、解決していきたいと熱い想いを語ってくれました。
【企業データ】
会社名:三重電子株式会社
事業内容:表示機器事業・電子機器事業・FA事業・メカトロニクス事業・健康事業
所在地:三重県多気郡明和町蓑村1168
資本金:50百万円
社員数:90名(2025年4月時点)