「面白さこそ生きがい」─科学とマーケティングの融合、そして新しい価値創造への道のり(ワダカルシウム製薬株式会社)
経営者は、いつまでも自分ひとりで成果を出し続けなければならないものなのでしょうか。いいえ、そうではありません。従業員の力を最大限活かして成果をサポートし、出た成果を共に大いに喜ぶ、それこそが経営者としての生きがいである、そんな境地に辿り着いている方がいます。
ワダカルシウム製薬の代表取締役である吉田浩一氏は、65歳を過ぎた今も、事業環境が厳しい健康食品業界の難題に挑み続けています。その行動の根源には、かつて研究者として熱中した「新しいものを創り出すこと」への尽きることのない情熱があります。しかし、その「好き」や「得意」を追求する過程で、吉田さんの働き方に対する価値観は大きく変化しました。まだ世の中にないものや価値を生み出したいという願いと、その願いを会社というフィールドでどのように実現していくのか。その心の声と向き合った、セッションの記録です。

ワダカルシウム製薬株式会社:吉田 浩一さん(代表取締役)
1.化学者として熱中した「新しい価値の創造」
――吉田さんが子どもの頃から今に至るまでの、時間を忘れて熱中してしまうことって何でしょうか。好きなことを教えてください。
吉田浩一さん(以下、吉田さん):これはまた難しいですね、小さい頃から中学くらいまでは野球ばかりやっていました。それはもう、時間も忘れて日が暮れるまでずっと、野球をやって遊んでいたのです。ただ、その野球も高校以降はやっていないので、そういう意味で幼い頃から一貫して好きなことではないのですね。それ以降はどうだったかなと考えると、私は大学が薬学部で、実験をするのがものすごく好きでした。合成薬品製造学というゼミに入って、フラスコと試験管で医薬品の合成をしていました。これがとても面白くって、大学の実験室に夜の10時ぐらいまでいる、という実験どっぷりな生活を、大学院も含めた3年間、続けていました。
―― 薬学部での化学実験がものすごく面白かったのですね。
吉田さん:はい。実験が好き、新しいものを作り出すのが好き、という流れで製薬会社の研究所に入り、同じように実験を続けていました。私はそういう化学実験がとことん好きだったのだと思います。研究や実験というのは、新しいことへの挑戦だと思います。やっぱり、新しいものを作り出すということが面白くて仕方なかったのだと思うんです。それが今では、化学実験をしなくても新しい医薬品が作れるという、画期的な流れも来ています。

―― 吉田さんは新しいものを作ることが好きなのだとご自分の思いを整理されているのですね。
吉田さん:はい。世の中にないものを作り出した時、新しい価値が生まれ、新しい流れが起きて結構面白いことが起こります。そんなことを前職でもやっていました。ワダカルシウムでも、色々と新しい、人がやらないようなアイデアを構想するのですが、実現するのはなかなか難しい。しかし、新しい物事を構想することって面白くてやめられませんね。前職でも、郵送検査キットという、検査キットを自宅に取り寄せて血液や尿を自分で採取し、返送することでいろいろな検査ができるサービスを構想し、新しいビジネスとして展開できないかと、非常に熱中したものでした。
―― 前職当時、郵送検査キットの事業化は斬新だったでしょうね。ワダカルシウムにいらっしゃってからも、そういった新しいものづくりの話はいつも盛り上がってるようですね。
吉田さん:そうかもしれません。特に、郵送での血液検査や尿検査というサービスは、他社の参入が少ない分野です。ワダカルシウムの主力事業であるサプリメントや医薬とうまく絡ませられたら、新しい付加価値が生み出せるのではないかと思って挑んでいます。
―― 好きなことは、結果が出なくても嫌いになることはないという感覚でしょうか。
吉田さん:そうですね。私自身は強くそう感じています。この感覚を自社の従業員にも理解されて、「自分も同じだ、じゃあ一緒にやろう」という気持ちになってもらえたら、会社としてぐんぐん成長しそうですよね。
2.薬学の知見とマーケティングの融合
―― 次は得意なことをお聞きしたいです。吉田さんが人から頼られたり、自然とこなせてしまうことは何でしょうか。
吉田さん:そういったことは、あまり自分では意識しないものですよね…そういえば私は前職で、薬学部出身でいながらずっとマーケティングをやっていました。会社の計画を作ったり、進捗管理をしたり、分析をしたり、次の企画を考えたり。32歳ぐらいから会社を辞める55歳まではずっとそんな数字を分析し、追いかけることばかりやっていました。そうしているうちに、私より会社の状態を理解し分析できる人間は少なくなります。なので、マーケティング部署にいた期間の後半は、数字の扱い方を部下に教えることばかりやっていました。数字を理解し分析することに関しては得意でしたね。
―― 数字がたくさん並んでいるのを見ると拒絶したくなる人も多い中で、吉田さんはアレルギーを感じないのですね。
吉田さん:感じないですね。中学や高校で化学に夢中になった頃から数字が苦にならないことに気づきました。その得意が高じて、需要を予測して生産計画をたて、生産現場に生産依頼をするという仕事を、前職ではずっとやっていたのです。数字が並んでいるのを見ていると数字が語りかけてきてくれる感覚なので、他人の分析が間違っていることにも気が付きやすくなります。会社を経営していると、BSやPL、事業計画やマーケティングの販売データまで、全て最後は数字で出てくるので、この得意は大いに生かされていると思います。

―― ありがとうございます。それでは3つ目の質問です。吉田さんの稼げること、他人から価値として認められていることは何でしょうか。
吉田さん:個人の価値としてずっと自覚しているのは、医薬品や健康食品の成分など、そういう技術的な知見を持ちながらマーケティングができるということです。大学の薬学部と院で研究にどっぷり浸かり、製薬会社の研究所に入ったのに、ある時いきなり「君は研究よりもマーケティングに向いているかもしれないな」と言われてマーケティング部に異動させられました。マーケティングのマの字も知らなくて飛び込みましたが、医薬品マーケティングの分野なので薬学の知見は活かせるし、得意な数字を見ることも活かせるし、よかったと今では思っています。
―― 薬学的な知見とマーケティングの知識を融合できることが、大きな価値だと感じていらっしゃるのですね。
吉田さん:そうです。商品を企画する際に開発チームとミーティングしますが、専門用語が全く苦にならない。生産過程の技術的なこともわかるし、成分など薬学的な知見を持って医薬品のマーケティングができる人間は、当時社内にあまりいなかったようで重宝してもらいました。
―― その2つの融合は非常に大きな価値だったと感じていらっしゃるのですね。
吉田さん:はい。ワダカルシウム製薬へ再就職するときも、薬学とマーケティングの両方をできることが評価されて採用してもらったので、この2つの分野の融合は私自身の大きな武器になっていると感じます。
3.働き方の価値観を一変させた異国での経験
―― 最後の質問は喜ばれること、つまり、お金をもらえなくても「吉田さんがいてくれてありがたいね」と言われることをお聞きしたいです。
吉田さん:私は自覚があるのですが、40歳くらいまでは一匹狼的な仕事のやり方をしていました。部下に仕事を振るよりも自分でやってしまったほうが早かったですし、数字のことでも何でも自分でパパッとできてしまったのですね。ですが、40歳を超えてアメリカのメンソレータム社へ出向しました。確か42歳の年でした。

―― アメリカ市場を勉強してくるように、という意図での出向だったのでしょうか。
吉田さん:そうです。会社は私のマーケティング能力に磨きをかけたかったのだと思います。しかし、仕事の土台となる言葉が通じないところへ放り込まれると、今まで通りになんて出来やしません。私は苦手が少ない人間ですが、英語だけはからきしだめでした。ここで、大きな価値観の転換が起こりました。
―― ご自分で何でもできるという状態から何もできない状態へと、強制的に環境を変えられて能力をリセットされる感覚だったのですね。
吉田さん:はい。言葉がわからないと商談に同行しても内容がわからないし、何もできないのです。必然的に他人を頼るようになります。他人への頼り方や任せ方のコツと任せることの大切さを学びました。そうやって帰国して課長とかになると、一匹狼的価値観から協働の価値観へと転換しているので、自分で何でもやるということをしなくなりました。部下に教えて、部下ができるようにしていきます。アメリカに行くまでは自分が成果を出すのが喜びであり、価値だったのですが、アメリカに行ってショックを受けて戻ってきた後は、自分が実行して感じる喜びや価値よりも、サポートした部下が成果を出して感じる喜びや価値のほうが大きく感じられるようになりました。すごく大きな価値観転換でしたね。
―― それは、働き方としても生き方としてもとても大きな変化ですね。
吉田さん:そうですね。価値観が転換してから出会った部下たちには、大きな仕事でも小さなミーティングでも「最後には吉田さんがいてくださる、と思うと安心して仕事ができる」といってもらえるようになりました。43歳や44歳以降ですね、部下たちにものすごく慕ってもらえるようになったと感じられるようになったのです。
―― ご自身が成果を出せた時以上に、仲間をサポートできる喜びのほうが大きく感じられるようになったということですね。
吉田さん:そうですね。こういった価値観の大転換って、会社の働く環境が大きく変わらない中や淡々とこなしていく中では発生しにくいと思っています。私は強制的に環境を変えられて、脳力をリセット状態にされてしまった中で経験できました。そういった環境の大変化がないまま上司などの上の立場になった人間は、どんなに能力が秀でていても上から目線で命令的なマネージメントから抜け出しにくいのではないかと感じています。
―― もしかして、今ワダカルシウムの従業員の方々が、秘めている可能性を発揮しきれていないともどかしさを感じていらっしゃいますか。
吉田さん:はい。従業員のマインドというものは会社ごとに違うものなので、経営者のマネージメントの手法や価値観も変えねばならないと考えています。とはいえ、ワダカルシウムの従業員は全体として挑戦を躊躇っているように見えます。そこがもどかしい。中小企業の強みは人材の多様性です。多様な人材の多様な能力をどうやって開発して、伸びしろを見つけていくのか、が勝負です。現状持ちうる資源で、いかにベストな状態へ持っていけるかというところに私自身が挑んでいきたいです。
4.「面白さこそ生きがい」を追求し続けて生きる
―― ここまで、好きなこと、得意なこと、稼げること、喜ばれることという4つの質問をもとに、4つの円を描きました。この4つの円が重なり合う部分に「生きがい」が浮かび上がって来ませんか。吉田さんの「生きがい」はどんなものでしょうか。
吉田さん:実は最近、娘が「お父さん、65歳過ぎたらどういうふうに生きていくの?」とすごく気にしてしきりに聞いてくるのです。先日65歳過ぎたら継続雇用に移行して雇ってもらえるよ、と話したら、今度は「お父さんはどうしてそんなに働くの?」と聞いてくるわけです。そこで私は考えたのです。お金が必要だから働いているのだろうか、いや、必要なことは間違いないけれど違う。「面白いから働くんだよ」と答えたのです。ハッとしました。

―― 面白いから働く。その言葉に、吉田さんの「生きがい」のようなものが見える気がします。
吉田さん:そうですね。やっぱり、人生においては「面白いことをやる」ということが良いのだろうなと思っています。私自身のここ数年での面白いことは、ワダカルシウム製薬をうまく成長させる軌道に乗せていくことです。それが終わって会社を退職した後は、社会貢献なのか何なのかまだわからないけれど、「面白い!」と思えることを探して、常に持ち続けていたいと思っています。
―― 面白いことをやり続けることから、生きがいが生まれてくるように感じていらっしゃるのですね。
吉田さん:そうですね。面白いと感じることはその時々で変わっていくし、ひとりの人の中でも固定されているものではありません。私自身が今現在面白いと感じる、この会社を成長軌道に乗せるためには、新しい商品、まだ世の中にないものを生み出して、新しい価値を作り出し、社会の方々に喜んでもらえる状況を作り出すことが必要です。そのことそのものが私にとっては面白いことで、挑戦したいことなのです。
―― まだ世の中にないものを生み出して喜んでもらうということは、とても素晴らしいことです。
吉田さん:そうやって喜んでもらえる、その喜びの度合いについては、その人が亡くなったあとのお葬式に何人の人がお別れに来てくれるか、どのくらいの人たちが悲しんでくれるか、で測るしかないと思うのです。その人とのお別れを悲しんでくれる人の数こそが、その人の価値ではないでしょうか。より多くの方に喜んでもらえるような、影響を与えられるようなそんな人生を送ろうと努力する必要が、人にはあると思うのです。
―― 吉田さんの生きがいは、面白いと感じることをしていきたいという願いから湧き出ているのですね。
吉田さん:そうかもしれません。生きがいというものはたくさんの要素が複合的に絡み合ってできているように思います。今の私自身の生きがいである「会社を成長させる」「新しい面白い試みで会社を成長軌道に乗せる」ということも、私自身の人生全体の生きがいの一部で構成要素に過ぎないとも考えています。私自身も、まだまだ生きがい探しの途上ですね。
―― 会社という組織の中では、従業員個々の生きがいはどんなふうに作用しているとお考えでしょうか。
吉田さん:働きがいがあるかどうか、が大きく影響すると考えます。働きがいは面白い仕事ができていると感じられるかどうかにかかってくると思いますし、働きがいを感じられる機会が多ければ多いほど、従業員が個々に生きがいを感じる機会も増えるでしょう。しかし、働きがいというものは、個人の気持ちの持ち方や価値観で決まってしまう部分が大きいものです。会社の制度や環境は二の次ではありますが、それらが個々人の気持ちや価値観のピースと噛み合った時に、より高い働きがい、より高次元の生きがいとして実現するのでしょう。経営者として、制度や環境を整えていくと同時に、従業員個々人がどんな時にどんなふうにどの程度働きがいを感じてくれているのか、にアンテナを張ってこれからも精進していきたいと考えています。
クライアントのIKIGAImandala
- 好きなこと:新しいものを創り出すこと/世の中にないものを生み出すこと
- 得意なこと:数字の分析と計画立案/科学的な知見から数字を読み解くこと
- 喜ばれること:部下の成果をサポートし、彼らが安心して働ける環境を提供すること/多くの人に喜んでもらえるようなことをしていくこと
- 稼げること:薬学的な知識とマーケティング能力の融合
- IKIGAI:面白いことを追求し続けること

IKIGAImandalaセッションを終えて(編集後記)

「面白いから働くんだ」―― 娘さんからの率直な問いかけに、同じく率直に答えた吉田さんのこの言葉が、セッション全体を貫いていました。薬学というサイエンスのバックグラウンドを持ち、数字を読み解くことに長け、誰にも真似できない薬学の技術的知見とマーケティングの融合という優位性を持つ吉田さん。一方で、かつて「一匹狼」だった彼が異国での挫折を機に、「部下の成果をサポートすることこそが大きな喜びになる」という大きな価値観転換を経ていたこと、そこにIKIGAIの深さを見た気がします。
IKIGAIとは唯一完璧な目標ではなく、その時々で変化する「面白いことを追い求めるプロセス」であり、それが結果として「より多くの人に喜んでもらえる人生」という、その人が生きたことの証に繋がる、という確信を得ました。
【企業データ】
会社名:ワダカルシウム製薬株式会社 (https://www.wadacal.co.jp/)
事業内容: 医薬品、健康食品、サプリメントの研究・開発・製造・販売
所在地:〒538-0053 大阪府大阪市鶴見区鶴見2丁目7-75 資本金: 100百万円 従業員数: 50名
【記事掲載(IKIGAImandalaセッション事例)について】
本記事は、クライアントご本人の事前の許諾と、厳密な原稿内容の確認を経て、特別に掲載させていただいております。 セッションで扱われる内容は非常にプライベートなものであり、ご本人の許可なく外部に公開されることは一切ありません。 「記事化を前提としない、非公開でのセッション」も承っておりますので、ご安心ください。