【イベントレポート】「起業」だけが答えじゃない。和歌山大学が挑む、全学生・全社会人に贈る「IKIGAIあふれるアントレプレナーシップ」の源泉
2025年10月某日、和歌山大学にて、あるインターンシップの振り返りイベントが開催されました。参加したのは、企業実習を終えた学生たちと、受け入れ企業の担当者、そして大学教員のみなさんです。
しかし、今回は単なる「実習報告会」ではありませんでした。和歌山大学が全学を挙げて取り組む「アントレプレナーシップ教育」の核心を問う実験の場でもありました。
「アントレプレナーシップとは、一部の起業家のためのものではありません。働くすべての人に必要なスキルであり、その源泉は『働きがい、生きがい』にあるのではないか」──この仮説を検証すべく、学生と企業、そしてIKIGAIの専門家が車座になり、熱い対話が繰り広げられました。

メインスピーカー:田端 望愛さん(和歌山大学 教育学部3回生/インターン生)
主催・進行:和田 真治さん(和歌山大学 教授/アントレプレナーシップデザインセンター 副センター長)
ファシリテーター:熊倉 利和(一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会 代表理事)
1. 1年生から4年生まで「全員が対象」。和歌山大学が定義するアントレプレナーシップとは
イベント冒頭、和歌山大学の和田先生は、同大学におけるアントレプレナーシップ教育の全体像を力強く語られました。特筆すべきは、それが一部の意識の高い学生向けではなく、一般教養として全学生に開かれている点です。
「起業して会社を立ち上げることも一つの形ですが、それだけがアントレプレナーシップではありません。組織の中にいても、自分自身の『強み(自己認識)』を持ち、周りの人を巻き込みながら新しい価値を生み出していくこと。それこそが、幸せな人生(ウェルビーイング)を送るために必要な力なのです」

和田先生の言葉は、現代社会への鋭い問いかけでもありました。
不確実な時代において、誰かに与えられた正解をこなすのではなく、「自分は何のために働くのか」という軸を持つこと。今回のインターンシップ(60時間の実践演習)は、その軸を社会との接点の中で見つけるための「道場」として位置づけられています。
2. 「稼ぐ手段」から「笑顔の循環」へ。IKIGAImandala™が可視化した女子学生の劇的変容
イベントのハイライトは、株式会社アワーズ(アドベンチャーワールド)でのインターンを終えた教育学部3回生の田端さんと、日本IKIGAIデザイン協会の熊倉代表理事によるセッションでした。ここで用いられたのが、自身の価値観を整理するツール「IKIGAImandala™」*¹です。

「インターンに行く前、働くことってどう思っていましたか?」
熊倉氏の問いに、田端さんは率直に答えました。
「生きるためにお金を稼ぐ手段だと思っていました。でも、私はポジティブなので、どうせなら楽しみたいなとも思っていました」
当時の彼女にとって、働くことはあくまで「自分の中で完結する楽しみ」でした。
しかし、現場での体験が彼女を変えました。アドベンチャーワールドのレストラン店長の「スタッフ自身が楽しまなければ、ゲストを笑顔にできない」という姿勢。部署を超えて「Smile(しあわせ)」のために連携する社員の姿。それらを目の当たりにした彼女のマンダラには、劇的な変化が起きていました。
「自分らしさだけで終わるんじゃなくて、それをどう相手に活かすか。笑顔が循環するような世界を作りたいんです」
彼女がたどり着いた人生理念は、「今を全力で楽しみ、そして周りの人を笑顔にすること」でした。当初の「自分だけの楽しみ」から、「他者への貢献」へ。彼女の中で起きた「働く意味」の拡張がIKIGAImandala™セッションで追体験されました。

熊倉氏は分析します。
「多くの大人は、仕事を『食事を運ぶ』といった行動(Doing)で捉えがちです。でも彼女は、『Smile(しあわせ)を届ける』というあり方(Being)に気づきました。これこそがIKIGAIの正体であり、アントレプレナーシップの源泉なのです」
3. 「忘れかけていたものを教わった」──学生の純粋なIKIGAIが、大人たちの心を揺さぶる時
田端さんの発表は、会場にいたベテラン社会人たちにも大きな衝撃を与えました。
株式会社松源の中筋氏は、「最初は『楽しむ』ことから始まったはずなのに、いつの間にか日々の業務や流れ作業になってしまっていた。彼女の言葉に、ハッとさせられました」と、自らの原点を振り返りました。
また、紀陽銀行の小西氏は、「我々の世代は『24時間働けますか』の時代でした。でもこれからは、若い人も高齢者も、それぞれのIKIGAIを見つけて働ける社会でなければならないと感じました。彼女の希望に満ちた話を聞いて、我々大人も頑張らなければと刺激を受けました」と語りました。

さらに、インターン生からのフィードバックも大人たちを唸らせました。「推し活」の概念を取り入れたスーパーの売り場づくりや、若者に響く陳列の提案。それは、忖度のない学生視点だからこそ見える「イノベーションの種」でした。
熊倉氏はここで、IKIGAIのもう一つの側面である「レジリエンス」について触れました。
「田端さんもインターン中に『人生理念』を言語化する際、苦しみ抜いたと言っていました。IKIGAIとは、キラキラした楽しい状態だけを指すのではありません。うまくいかない時、暗闇の中にいる時でも、自分の中に『大事にしたい軸』があることで、それを希望に変えていける。その力が、社会に出た時の折れない心を作るのです」
4. アントレプレナーシップとは「生き方」そのもの。大学と企業が共に育つ未来へ
田端さんは教育学部に所属し、将来は教師を目指しています。「企業へのインターンシップは教育とは関係ないのでは?」という当初の疑問は、体験を通じて完全に払拭されていました。
「目の前の子どもたちだけでなく、その子どもたちが大人になった時、どう生きていけば人生が幸せになるのか。未来のことも考えながら、『一瞬一瞬を大事にしながら生きてほしい』と伝えられる先生になりたいです」
彼女のこの言葉に、和田先生も深く頷かれました。
「アントレプレナーシップは、ごく一部の起業家のためのものではありません。挑戦し、打席に立ち、そこから未来を切り拓く『あり方』そのものです。それは教師になるにしても、どんな職業に就くにしても、必要な力なのです」
この学びの循環は、学生から企業へも波及しています。食品スーパーマーケット「松源」の中筋氏は、「学生の視点から、私たち自身も学ぶことがたくさんありました。業務を見つめ直すきっかけになりました」と述べ、企業側にとっても大きな学びの場となったことを強調しました。

「学生が成長する姿を見せると、周りの大人も成長する。この余波が社会を良くしていくのです」
和田先生が語るように、大学がプラットフォームとなり、若者の純粋なIKIGAIが、働く大人たちの心に火を灯していきます。
95%の人が熱意を持てないと言われる社会において、田端さんのような若者が自らの体験を通じて「働く意味」を再定義し、目を輝かせて語る姿は、参加した大人たちにとっても大きな希望の光となりました。
和歌山の地で始まったこの取り組みは、日本の教育、そして「働く」ことの定義を根底から変えるモデルケースになる──そんな可能性の熱気が、会場を包み込んでいました。
取材後記

「答えは、私の中にあったんです」 人生理念を言語化した時の感覚を問われ、そう答えた田端さんの晴れやかな表情が忘れられません。
私たちはつい、アントレプレナーシップを「スキル」や「知識」として外から教えようとします。しかし、今回のイベントが証明したのは、その源泉はすでに一人ひとりの中に「IKIGAI」として眠っているという事実でした。
「自分は何のために働くのか」。その問いに対する答え(IKIGAI)を自ら掴み取った学生は、もはや「労働者」ではなく、自らの人生を経営する「アントレプレナー」へと変貌を遂げていました。
そして、その純粋なエネルギーは、受け入れた企業の大人たちの心にも火をつけました。教育とは一方的なものではなく、相互に作用し合うもの。IKIGAIを軸にした和歌山大学の挑戦は、企業と大学、若者と大人が共に育ち合う、新しい希望の形を示しています。
【注釈】*¹「IKIGAImandala™」とは 詳しくはこちら
【インターンシップ受入・イベント参加企業】
会社名:株式会社アワーズ
事業内容:テーマパーク「アドベンチャーワールド」の運営
所在地:〒649-2201 和歌山県西牟婁郡白浜町堅田2399番地
参加者:北野氏(人財部門 HR)
会社名:株式会社松源
事業内容:食品スーパーマーケット「マツゲン」の経営
所在地:〒649-6337 和歌山県和歌山市田屋138
参加者:中筋氏(総務人事部 部長)
会社名:株式会社紀陽銀行
事業内容:銀行業
所在地:〒640-8656 和歌山県和歌山市本町1丁目35番地
参加者:廣西氏、山本氏(スタートアップ支援室)