【イベントレポート】握りしめた手を開き、過去と未来を紡ぐ。岩永敏幸氏が見たIKIGAIのグラデーション
2026年3月6日から7日、八ヶ岳の麓にて「IKIGAI経営合宿」が開催されました。主催は一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会。業種も立場も異なる経営者・幹部6名が集い、「自身のIKIGAIを言語化し、自社のパーパスとつなぐ」というテーマのもと、深い対話の時間を共有しました。
成果や効率が重視され、働く人の95%が情熱を失っているとも言われる現代において、経営者はどのように自らの内なる火を灯し、組織を導くべきか。本記事は、参加者の一人である株式会社ファイブグループの岩永 敏幸氏の体験と気づきのレポートです。

参加者
株式会社ファイブグループ:岩永 敏幸さん(総務部長)ほか5名
主催
一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会
担当:IKIGAImandala/パーパス接続、熊倉 利和(代表理事)、渡辺 由美子(理事)
共催
一般社団法人アートピースジャパン
担当:IKIGAIアート、矢崎 千惠さん(代表理事)
1. 日常から切り離された八ヶ岳で身を委ねる
合宿の舞台となったのは、標高約1000mの八ヶ岳の麓。冒頭、一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会の熊倉 利和代表理事は、「今日は正解を求めない。つくらない。肩書きを脱ぎ捨てて、一人の『人』として語り合いましょう」と参加者たちに呼びかけました。この2日間で重視されたのは、日常の経営判断で求められる「やり方(Doing)」ではなく、その人が何を願い、何を大切にして生きているのかという「あり方(Being)」を根本から見つめ直すことです。
その入口として用意されたのが、共催である一般社団法人アートピースジャパン代表理事であり、アーティスト「千空」としても活動する矢崎 千恵さん(以下、矢崎さん)による、アートを通じた“心の解放”のワークです。
参加者はまず目を閉じ、自分の過去の経験や、経営の中で抱えてきた感情、そして今手放したいと思っているものを、一枚の紙に書き出していきます。そこにクレヨンで自由に色を重ね、最後は紙を引き裂いて、屋外の焚き火へとくべていきます。

経営者・幹部として、日々張りつめている感覚をいったんゆるめ、自分の中にある葛藤や苦しみ、言葉にならない感情に触れ直す。その時間そのものが、この合宿の土台になっていきました。
2. 握りしめた手を開き、余白の中で見つけた「感謝」と「志」
リセットのワークを終え、参加者たちは「IKIGAImandala™」を用いた対話セッションへと移行。「好きなこと」「得意なこと」「稼げること」「喜ばれること」という4つの円を重ね合わせながら、自分にとってのIKIGAIを言葉にしていく時間です。
株式会社ファイブグループの岩永 敏幸さん(以下、岩永さん)は、渡辺 由美子理事とのセッションの中で、自らの「好きなこと」として、周りを巻き込み、人が笑顔になることへの喜びを挙げた。社内に97名もの野球部を作り、部下とリレーマラソンに出場するなど、その行動力は際立っている。しかし、岩永さんはかつて内向的で、自分の世界にこもるタイプだったと打ち明けました。

転機となったのは、10年前に現職へ入社し、「楽しさが最上位概念」という教えに触れたことだったと言います。当時は仕事で成果を出して経済的に恵まれていても、心からの幸せを実感できずにいました。しかし、辛い時も含めて楽しむことが人生を豊かにすると気づき、自らの内面をさらけ出すことで、初めて周囲と深く繋がれるようになったと語られました。
さらに、岩永さんは経営幹部としての責任感から生じていた葛藤についても口にしました。以前は責任者として多くのものを強く握りしめていたが、ある時「握りしめているとこれ以上何も手に入らない」という感覚に陥ったといいます。
しかし、勇気を出してその手を手放してみた瞬間に、心にふっと余白ができた。その余白を通して周りを見渡した時、自分がすでに周囲の多くの恵みや温かな繋がりに支えられていることに気づいたと振り返りました。

結婚して15年になる妻に対し、毎朝家を出る前に「大好きだよ」と感謝を言葉にして伝えているというエピソードも飛び出す。過去から今までの道のりへの深い敬意と感謝。そして、自らが生きた証を未来の人たちへどう繋げていくかという志。ファシリテーターとの深い対話を通じて、岩永さんの中心にある願いが集約され、彼のIKIGAIは「過去への感謝と未来への志を持ち、『幸せの連鎖』を紡ぎ続ける覚悟」という力強い言葉へと結実したのです。
3. 左手のアートに刻んだ「幸あれ」──IKIGAIとパーパスの接続
合宿の2日目は、前日に見つけ出した個人の「IKIGAI」を、自社の「パーパス(経営理念)」といかに接続するかがテーマです。個人の生きがいが、組織の中でどのような意味を持ち、どう機能しうるのかを表現していく作業となります。
矢崎さんがリードするアートワークでは、前日の「手放す」プロセスから一転し、「生み出す」ための表現に挑戦。参加者たちはパステルなどの画材を手に取り、あえて利き手ではない左手で描き始めるよう指示を受ける。慣れない左手を使うことで、論理や効率を司る左脳を意図的に休ませ、直感や感性を司る右脳に身を委ねる。思い通りに描こうとする理性の制御がはずれ、言葉になる前の純粋な感覚がキャンバスの上に自由に広がっていきました。

色彩が豊かに交じり合ったアートの上に、岩永さんは前日に導き出した「幸せの連鎖への覚悟」というIKIGAIと、自社の「楽しいでつながる世界をつくる」という企業理念を重ね合わせ、導き出された「幸あれ」というキーワードを作品に刻みました。それは、単なるビジネス上のスローガンなどではなく、彼が人生の葛藤や痛みを経て獲得し、未来の世代へと手渡していくバトンそのものでした。
4. 両極が重なり合うグラデーション──体験を通じて得た深い視座
合宿は、綿密なプログラムだけでなく、焚き火やバレル型サウナでの語らい、手作りの食事といった「余白」の時間も大切にデザインされていました。
日常の役割を離れ、互いの存在をそのまま受けとめ合う空気の中で、参加者たちは自ずと心の奥底にある本音や弱さを共有していきました。
合宿を終えた後、岩永さんはこの2日間を振り返り、「IKIGAIという概念を知識として見つける以上に、体験を通じてその本質を感じることができた。IKIGAImandalaのように幾重にも重なり合う中で生まれるグラデーションこそが、それぞれの個性でありIKIGAIなのかもしれないと実感しております」との感想をいただきました。
さらに岩永さんは、ワークを始める前に参加者同士で手を重ね合わせ、アートを通じて色を重ねた体験にも触れ、次のような深い感覚になったといいます。
「幾重にも重なりあう=IKIGAIであると感じた時、苦楽や生死さえもがIKIGAIに成り得るという深い視点を得ることができました」
効率や成長だけを追い求める責務から離れ、経営幹部としてのあり方を見つめ直すひととき。完成したアートを手に記念撮影におさまった岩永さんの表情は、晴れやかで、確かな覚悟に満ちていました。
編集後記

「苦楽や生死さえもがIKIGAIに成り得る」──合宿を終えた岩永さんのこの言葉が、今も強く心に残っています。
私たちはつい、生きがいや働きがいを、成功や喜びといった光の側面だけに見出そうとしてしまいます。しかし、責任の重圧の中で強く握りしめていた手を開いた岩永氏が、そこにすでにある豊かな繋がりに気づいたように、葛藤や痛みといった影の部分もまた、人を形作るかけがえのない要素である。
相反する両極の感情が混ざり合うグラデーションの中にこそ、その人だけの確かな軸が立ち現れるのではないでしょうか。
制度や仕組みを整える前に、まず経営者自身が自らのあり方を見つめ、光も影もすべてを抱え込みながら未来を紡ぐ覚悟を決める。人が自ら幸せになっていける空気と関係性をひらくことこそが、持続可能な組織をつくる土台になるのだと、改めて感じました。
【八ヶ岳IKIGAI経営合宿レポート】はこちら
【企業データ】
会社名:株式会社ファイブグループ
事業内容:飲食業
所在地:〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-5-10 いちご吉祥寺ビル7F
資本金:10百万円
従業員数:2,346人(正社員456名・アルバイト1,890名)※グループ連結
主催団体
会社名:一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会
事業内容:IKIGAI経営の普及・推進、IKIGAImandala™メソッドの提供
所在地:〒409-1501 山梨県北杜市大泉町西井出7509
共催団体
会社名:一般社団法人アートピースジャパン
事業内容:アートを通じた平和活動、キッズゲルニカの開催・運営、ワークショップ企画、アーティスト支援
所在地:〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-10-15