【イベントレポート】長野・八剱神社で響き渡った「日本文化再興」の産声
2025年12月13日、澄み渡る秋空の下、長野県諏訪郡にある古社・八剱神社の拝殿には多くの参拝者が集っていた。
主催は、日本文化再興プロジェクト長野支部。支部長を務めるのは、一般社団法人アートピースジャパン代表理事であり画家の矢崎 千惠さんです。テーマは「文化奉納を通じた、日本人の心の再興」。
かつて日本人が大切にしていた「新嘗祭」の精神──収穫への感謝と、働くことへの祈り──を現代に取り戻すというのが趣旨だ。イベントでは、宮司の講話、音楽、書、絵画が一体となり、集まった人々の心には、「働くこと」の根源的な意味が問いかけられました。

日本文化再興プロジェクト長野支部長 一般社団法人アートピースジャパン代表理事:矢崎 千惠さん
八剱神社宮司:宮坂 清さん
文化奉納の演奏:篠笛、マリンバ、詩吟、書、弦楽四重奏団のみなさん
1. 祈りをカタチに──日本文化再興プロジェクト、長野からの始動
八剱神社の拝殿は、凛とした空気に包まれる中、開会の挨拶に立った矢崎 千惠さん(以下、矢崎さん)は、「文化やアートには、人の心を開き、世界を平和へと繋いでいく力があります。」と、 静かながらも熱のこもった声でそう語りかけた。
矢崎さんは昨年、一個人として絵画の奉納を行った際、「日本の文化と心を未来へ繋ぎたい」という強い想いに駆られたという。その想いが種となり、日本学ユニバーシティが掲げる「日本文化再興プロジェクト」の長野支部発足へと結実した。

今回の奉納は、その第一歩であり、単なる芸術鑑賞会ではない。神前において、日々の恵みへの感謝と、地域の繁栄、そして平和への祈りを「カタチ」にして捧げること。それは、現代社会が忘れかけている「見えないものへの畏敬」を取り戻す儀式でもあった。
2. 宮司が説く、「おむすび」と「はたらく」の語源
イベントの核心を突いたのは、八剱神社の宮坂 清宮司による講話だった。宮司は、私たちが普段何気なく使っている言葉や、働くことの意味について、日本古来の視点から紐解いていった。
「皆さん、コンビニで買うあれを何と呼んでいますか? 『おにぎり』ですか? 今日からはぜひ『おむすび』と言ってください。」宮坂宮司は穏やかな笑顔で会場に語りかける。
「むす(産)」とは、苔がむす、娘、息子という言葉にあるように、新しいものが生まれる霊力を指す。つまり「おむすび」とは、米という命と人の手が結ばれ、新たなエネルギーが生まれる神聖な行為なのだという。

さらに宮司は、「働く」という行為の本質にも触れた。 「現代は契約社会です。労働力を提供し、対価として給料をもらう。しかし、お百姓さんは太陽やお天道様と契約しているわけではありません」
かつて日本人は、稲(イネ=命の根)を担ぐ姿そのものを、神の姿と重ね合わせていたという。「働く(ハタラク)」とは、傍(ハタ)を楽(ラク)にするという語源だけでなく、神聖な稲を担う所作そのものが祈りであり、感謝の表現だったのだ。
「ただ生きるために稼ぐのではない。働いているその姿こそが、尊い神様の姿なのです」宮司のこの言葉に、会場の多くの参加者が、自らの日々の仕事を振り返るように深く頷いていた。
3. 魂を震わせる奉納──笛、書、そして「千空」の祈り
宮司の言葉で整えられた場に、次々と「祈りの音」が奉納されていく。長野冬季五輪の開会式でも奏でられたという「神代笛(じんだいぶえ)」の音色が、太古の記憶を呼び覚ますように響き渡る。

続いて奉納されたのは、意外にも「剣の舞」などの激しい曲調を含むマリンバの演奏だ。宮坂宮司によれば、八剱神社の祭神である日本武尊(ヤマトタケルノミコト)は、知恵と勇気で困難を切り拓いた神。その荒々しくも力強いエネルギーと、マリンバの振動が共鳴し、場を清めていくようだった。
そして、矢崎さんご本人によるライブペインティング。画家「千空(せんくう)」としての筆が、迷いなく走る。 「幾千もの命が、空なる根源と繋がり、美しい毎日でありますように」

白い円の中に、一筋の赤い線が描かれる。それは日本の象徴であり、また一人ひとりの内にある情熱の炎のようにも見えた。
4. 奏で合う音が会場をひとつにする
奉納の最後を飾ったのは、弦楽四重奏による『カノン』だ。
演奏には、矢崎さんのビジネスパートナーであり夫でもある、アートピースジャパン理事の矢崎 弘直さんもバイオリンで参加。東京から駆けつけた演奏家と、地元の演奏家が、この日のために結成した即席のユニットである。

「リハーサルを聞いただけで涙が出ました」と宮坂宮司が語った通り、パッヘルベルのカノンが重なり合いながら高まっていく様は、まさにこのプロジェクトが目指す「調和」と「結び」そのものだった。 異なる場所に住み、異なる背景を持つ人々が、一つの祈りの下で音を重ねる。その調和の響きは、神前への奉納であると同時に、そこにいるすべての人々の魂への贈り物となった。
閉会にあたり、矢崎さんはこう結んだ。「今日ここで捧げられた祈りが、皆様の日々の中にも静かに広がっていきますように。」新嘗祭に合わせて特別に作られた無農薬の「新月米」と、毎朝言葉をかけて醸された日本酒が振る舞われ、参加者たちは「共に食べる(神人共食)」喜びを分かち合いながら、夕暮れの八剱神社を後にした。
取材後記

「おにぎり」と呼ぶか、「おむすび」と呼ぶか。
宮坂宮司のこの問いかけは、単なる言葉遊びではなく、私たちが世界とどう関わるかという「あり方」の問いそのものでした。契約に基づいた労働として時間を切り売りするのか、それとも、誰かの役に立ち、世界と繋がるための「祈り」として働くのか。
矢崎 千惠さんとアートピースジャパンが灯したこの「日本文化再興」の灯火は、過去の伝統を懐かしむためのものではありません。それは、私たちが日々の仕事の中に「生きがい(IKIGAI)」を見出し、魂を込めて生きるための、未来への道しるべなのだと感じました。
主管:日本文化再興プロジェクト長野支部長 一般社団法人アートピースジャパン 代表理事 矢崎 千惠さん
事業内容:アートを通じた平和活動、キッズゲルニカの開催・運営、日本文化再興プロジェクトの推進
開催場所:八剱神社
所在地:長野県諏訪市小和田13-18
宮司:宮坂 清氏