【イベントレポート】移動し続ける情熱と守るべき場所。経営者が八ヶ岳で見つけた未来への「新定義」
2026年3月6日から7日にかけ、八ヶ岳の麓にて「IKIGAI経営合宿」が開催されました。主催は一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会。参加者は業種も立場も異なる経営者や幹部たちです。
「自身の生きがい(IKIGAI)を言語化し、自社のパーパスと直結させる」──このテーマのもと、参加者たちは日常の重責から離れ、肩書きを脱ぎ捨てて自分自身の内面と向き合いました。本記事では、参加者の一人であるベイラインエクスプレス株式会社 代表取締役・森川 孝司氏の体験を追います。コロナ禍という未曾有の危機を乗り越え、会社を守り抜いた経営者が、大自然と深い対話の中で見つめ直した「働くことの意味」と、未来への新たな覚悟の軌跡をお届けします。

参加者
ベイラインエクスプレス株式会社:森川 孝司さん(代表取締役)ほか5名
主催
一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会
担当:IKIGAImandala/パーパス接続、熊倉 利和(代表理事)、渡辺 由美子(理事)
共催
一般社団法人アートピースジャパン
担当:IKIGAIアート、矢崎 千惠さん(代表理事)
1. 日常から切り離された八ヶ岳で身を委ねる
合宿の舞台となったのは、標高約1000mの八ヶ岳の麓。冒頭、一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会の熊倉 利和代表理事は、「今日は正解を求めない。つくらない。肩書きを脱ぎ捨てて、一人の『人』として語り合いましょう」と参加者たちに呼びかけました。この2日間で重視されたのは、日常の経営判断で求められる「やり方(Doing)」ではなく、その人が何を願い、何を大切にして生きているのかという「あり方(Being)」を根本から見つめ直すことです。
その入口として用意されたのが、共催である一般社団法人アートピースジャパン代表理事であり、アーティスト「千空」としても活動する矢崎 千恵さん(以下、矢崎さん)による、アートを通じた“心の解放”のワークです。

参加者はまず目を閉じ、自分の過去の経験や、経営の中で抱えてきた感情、そして今手放したいと思っているものを、一枚の紙に書き出していきます。そこにクレヨンで自由に色を重ね、最後は紙を引き裂いて、屋外の焚き火へとくべていきます。
パチパチと音を立てて燃え上がる炎を見つめながら、ベイラインエクスプレスの代表取締役である森川 孝司さん(以下、森川さん)もまた、会社を守るために張り詰めていた心の鎧を少しずつ脱ぎ去り、静かな内省の時間へと入っていきました。
2. 「移動」と「定住」──相反する願いの中にある自分らしさ
リセットのワークを終えた参加者たちは、「IKIGAImandala™」を用いた対話セッションへと移行しました。「好きなこと」「得意なこと」「稼げること」「喜ばれること」という4つの円を重ね合わせ、自身の本当の願いを言葉にしていく時間です。
渡辺由美子理事との対話の中で、森川さんは自らの「好きなこと」として、「移動すること」や「未知へのチャレンジ」を挙げました。
運輸業界に身を置く森川さんにとって、見知らぬ土地を訪れ、コンプリートしていくことは大きな情熱の源泉であり、同じ場所に留まることなく新しい刺激を求め続けることが自分らしさだと語りました。
一方で、森川さんには家業を継承し、会社を守り抜くという強い責任感がありました。「稼げること」の円には、好きでない仕事を手放し、攻めの姿勢で事業を選択していく覚悟が刻まれていました。未知の世界へ移動し続けたいという自由への渇望と、会社という場所を守り続けるという重い責任。一見すると水と油のように相反する二つの要素が、森川さんの中に同居していたのです。

しかし、対話が進むにつれて、その矛盾を繋ぐ確かな関係性が見えてきました。森川さんは社員のことを「戦友」と呼びました。上下関係ではなく、共に困難を乗り越えてきた対等なパートナーとしての深い信頼です。無理に自分を大きく見せることなく、等身大の発信を心がけるオープンな姿勢が、結果として周囲からの信頼や「頼られると頑張る」という彼自身の原動力に繋がっていました。
「移動し続けながらも、守るべき場所があること。チャレンジし続けながらも、帰る場所があること」──森川さんは自らの内面を見つめ、相反する二つの願いが見事に調和した、自分だけの「IKIGAI」の輪郭を確かな言葉として紡ぎ出しました。
3. 左手のアートに刻み込んだ未来への「新定義」
合宿の2日目は、前日に見出した個人のIKIGAIを、自社の「パーパス(経営理念)」とどのように接続していくかがテーマとなりました。
個人の深い願いが、組織の中でどのような役割を果たし、社会にどう響いていくのかを探るプロセスです。
矢崎さんが導くアートワークでは、前日の「手放す」ワークから一転して「生み出す」表現へと向かいました。参加者たちはパステルを手に取り、あえて利き手ではない左手で画用紙に向かうよう促されます。論理や効率を司る左脳を休ませ、直感に身を委ねることで、理性の制御を外していきます。

さまざまな色彩が混ざり合うキャンバスの上に、森川さんは一つのキーワードを力強く書き込みました。
『新定義』
そこには、ただ人を運ぶという従来のバス事業の枠を越え、乗客一人ひとりの想いや移動の価値そのものを可視化し、新しく定義し直したいという強い願いが込められていました。未知へのチャレンジと守るべき場所という、自らのIKIGAIを体現するような言葉が、アートの上に確かな足跡として残されました。
4. 会議室に飾られた一枚の絵と、経営者の新たな一歩
合宿の終盤、森川さんは2日間の体験を静かに振り返りました。
「実は今期、会社の管理職に研修を行ってもらおうと考えていました。しかし、自分自身がまず体験し、新しいことにチャレンジすることの大切さを改めて実感しました。これを社員にも伝えていきたいと思っています」と語るその表情は、晴れやかで力強いものでした。

当初は部下に変わってもらうことを期待していた経営者が、大自然の中で自らの「あり方」を問い直し、自らが変化の起点になるという覚悟を決めた瞬間でした。
合宿から数日後、森川さんから一つのメッセージが届きました。
「先日、絵に合うフレームを購入して、会議室のど真ん中に飾ってみました。コロナでの大ダメージから財政健全化に少し目途が立った今だからこそ、未来へのチャレンジへ心が整いました。2日間、ありがとうございました!」
会社の中心である会議室に飾られた色鮮やかなアートは、森川さんが八ヶ岳で見つけた自分自身のIKIGAIの象徴であり、共に危機を乗り越えてきた「戦友」たちへの無言のメッセージでもあります。制度や仕組みを変える前に、まずトップ自らが鎧を脱ぎ、等身大の姿で未来への挑戦を宣言する。その純粋な情熱が、会社全体に静かな波紋を広げ始めています。
編集後記

自社の会議室に飾られた色鮮やかな一枚のアート。それは、コロナによるロックダウンという激動の時代を乗り越えてきた経営者が、自らの内面と深く向き合った証です。
組織の課題解決を図る際、私たちはつい、他者の変化を求めてしまいがちです。しかし、森川さんは八ヶ岳の自然の中で、ご自身の内なる葛藤や矛盾に真摯に向き合い、自らが変化の担い手となることを決意されました。
未知の世界へ飛び込む「移動」への強い情熱と、仲間と共に会社を「守る」という責任感。一見、相反するように映るこれらの要素を、森川さんはどちらも否定することなく、ありのままの自分として受け入れました。その結果、揺るぎない覚悟が生まれたのだと、深く感じ入りました。
経営者だからといって、常に完璧である必要はない。弱さも迷いも包み込み、ありのままの姿で他者と関わりながら、自らの言葉で未来を再定義していくこと。それが、人を惹きつけ、組織を真の意味で動かしていく力になるのだと、改めて確信しました。
【八ヶ岳IKIGAI経営合宿レポート】はこちら
【企業データ】
会社名:ベイラインエクスプレス株式会社
事業内容:高速路線バス、運送業
所在地:〒210-0826 神奈川県川崎市川崎区塩浜2-10-1
資本金:20百万円
従業員数:42名
主催団体
会社名:一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会
事業内容:IKIGAI経営の普及・推進、IKIGAImandala™メソッドの提供
所在地:〒409-1501 山梨県北杜市大泉町西井出7509
共催団体
会社名:一般社団法人アートピースジャパン
事業内容:アートを通じた平和活動、キッズゲルニカの開催・運営、ワークショップ企画、アーティスト支援
所在地:〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-10-15