【イベントレポート】「健康経営優良法人2024 (ブライト500)」認定企業と学生が語る、産学連携が拓く健康経営の未来
2024年3月、「第8回健康アセット・マーケティング研究会」と「第8回健康経営ブランディング研究会」が合同で開催されました。
今回は、健康経営優良法人2024(ブライト500)に認定された三幸土木株式会社様とベイラインエクスプレス株式会社様を迎え、企業側の具体的な取り組みと、大学生たちが考える健康経営の可能性について議論する貴重な機会となりました。
企業の持続的な成長に欠かせない「健康経営」というテーマに、企業と学生がどう向き合い、どのような未来を描こうとしているのか。当日の熱気に満ちた議論の様子を、本レポートでお届けします。
【参加者】
三幸土木株式会社:宮路 浩貴さん
ベイラインエクスプレス株式会社: 森川 孝司さん(代表取締役社長)
神奈川大学:中見 真也さん(経営学部 准教授)
一橋大学大学院 :阿久津 聡さん(経営管理研究科教授)
一般社団法人社会的健康戦略研究所:浅野 健一郎さん(代表理事 )
株式会社富士通ゼネラル:佐藤 光弘さん( 人事本部長付 / 一般社団法人社会的健康戦略研究所 理事)
神奈川大学学生:前田 さん
IKIGAI WORKS株式会社:熊倉利和(代表取締役社長)
第1部:課題に向き合った学生からの提案。未来の担い手たちが拓く健康経営の新たな可能性
三幸土木株式会社様への提案:若手層のエンゲージメント向上と文系学生採用
イベントの冒頭では、神奈川大学の中見ゼミに所属する学生の前田さんが登壇し、三幸土木株式会社とベイラインエクスプレス株式会社が抱える健康経営の課題に対し、具体的な解決策を発表しました。これは、学生が社会に出る前に企業の課題解決を実践的に学ぶ、産学連携の取り組みの一環です。
三幸土木が抱える課題は、「若手層のエンゲージメント向上」と「文系学生の採用」でした。これに対し前田さんからは多角的な視点から、外部と社内の両方へのアプローチが提案されました。
- 外部へのアプローチ
学生への認知度向上と興味喚起を目的として、ホームページの改善と大学の学園祭との連携が提案されました。ホームページには、会社の雰囲気を伝える動画やSNSのQRコードを掲載することで、若者の関心を引く工夫が盛り込まれました。また、学園祭で地域のお祭りを開催し、お菓子にQRコードを貼り付けることで企業への興味を促すというユニークなアイデアも発表されました。

ベイラインエクスプレス株式会社様への提案:多様なキャリアパスとやりがい創出
ベイラインエクスプレス様からは、従業員にどのようなキャリア選択肢やポジションを提供すれば良いかという課題が提示されました。これに対し、前田さんからは従業員満足度向上と離職防止を目的とした3つの施策が提案されました。
- 経営陣と従業員のつながり強化:従業員の意見を経営層に届けるため、月に一度の社長と従業員による会議を提案。また、従業員の精神的な健康維持や社内コミュニケーションを活性化させるため、チーフハピネスオフィサー(CHO)の導入も提案されました。
- バス運転手のやりがい創出:バス運転手のモチベーション向上とサービス品質向上を目的として、顧客アンケートの評価を昇格基準とするリーダーの階級制度導入を提案しました。
- 新しいキャリアパスの提供:運行管理者や、IT技術を活用した業務効率化を担う「デジタルシェアラー」という新しい役職の設置を提案。会社が資格取得をサポートする体制を構築することで、従業員のスキルアップ意欲に応え、多様なキャリア形成を支援する道が示されました。
発表を終えた前田さんは、「健康経営が何なのか最初はよく分からなかったが、実際に企業課題に向き合う中で、会社の成長に直結するものだと身をもって理解した」と語りました。この言葉は、産学連携だからこそ得られる学びの深さを象徴するものでした。
第2部:ブライト500認定企業が語る、健康経営の取り組みと産学連携の価値
本イベントの第2部では、健康経営優良法人の中でも特に優れた取り組みを実践する「ブライト500」に選ばれた、三幸土木株式会社の宮治浩貴氏とベイラインエクスプレス株式会社の代表取締役社長である森川孝司氏が登壇。それぞれの企業が推進する健康経営の具体的な取り組みと、学生との連携から生まれた価値について語られました。
三幸土木株式会社:健康と安全を両立する「建設現場」の健康経営
愛知県を拠点に活動する三幸土木は、2014年から健康経営を推進しています。同社は、禁煙チャレンジ、自社農園「三幸ファーム」での野菜栽培、調理実習、ウォーキング大会など、社員の健康増進に向けた多角的な取り組みを続けています。これらの活動が評価され、同社は9年連続で健康経営優良法人に認定され、さらに2021年からは5年連続でブライト500にも選出されています。
学生からの提案については、企業側だけでは気づけないような斬新なアイデアに大きな価値を感じたといいます。特に、地方創生やSNSを活用した広報、若手社員へのアプローチといった多岐にわたる提案は、今後の施策を検討する上で非常に参考になったとのことです。また、学生との対話は、社員が自社の健康経営への取り組みを改めて見つめ直す貴重な機会にもなったと語られました。現在、学生のアイデアを活用した文系学生向けインターンシップや、ウェブサイト・SNSでの情報発信なども進められています。
ベイラインエクスプレス株式会社:高速路線バスの最前線で働くドライバーの健康を支える
夜行バス事業を中心に、長距離路線バスを運行するベイラインエクスプレス。運輸業において「健康」と「安全」は不可分の要素であるとの認識のもと、顧客からの信頼確保のためにも、社員の健康増進に力を入れています。森川社長は、社員の「働きやすさ」や「生きやすさ」に焦点を当てた取り組みをさらに進めていく方針を表明しました。
学生からの提案は、社内に「市場」のようなものが存在することに気づかされるきっかけになったと森川社長は語りました。また、学生が提案したリーダーの役割や昇格基準は、既に社内で導入を進めており、自社の取り組みに対する確信を深めることにつながったそうです。特に、会社が目指す「理想の運転手像」の言語化の難しさを感じていたなかで、学生の提案がその必要性を再認識させてくれました。
ユニークな取り組みとして、運転手のキャリアアップ支援として会社が全額費用を負担する制度を導入。この制度を利用して動画制作を学んだ運転手が、プロ並みの採用動画を制作しました。この動画は採用活動に活用されるほか、動画を買い上げる形で運転手にも報酬を支払い、本業以外のスキルを正当に評価する仕組みも構築されています。
企業の経営者や担当者にとって、学生との交流は、自社の価値をあらためて見つめ直す貴重な機会となったようです。若者という「第三者の視点」から率直な意見を聞くことは、普段は見過ごされがちな自社の強みや、潜在的な課題を浮き彫りにするきっかけとなります。
また、企業側が伝えづらいと感じていたことも、学生からの新鮮な提案として受け止められるため、コミュニケーションが円滑になります。このような学生との対話を通じて、組織の現状を客観的に把握し、変革をスムーズに進めるきっかけを得られるのです。さらに、それは組織に新たな活力をもたらし、イノベーションを促進するという副次的なメリットも生み出します。学生との交流は、単なる情報交換にとどまらず、企業の内なる力を引き出し、未来を切り開くための重要な一歩と言えるでしょう。
第3部:パネルディスカッション 健康経営が企業と社会にもたらすイノベーション
本イベントのパネルディスカッションでは、神奈川大学の中見教授がモデレーターを務め、多岐にわたる視点から「健康経営」の本質が議論されました。中見教授は、健康経営を単なる福利厚生ではなく、企業の経営戦略そのものに繋がる重要な要素であると位置づけ、社員を大切にしながら未来の企業像をどう描くか、そして健康経営がブランディングにどう貢献するかについて、学生の発表から多くの示唆を得られたと語りました。
一橋大学大学院の阿久津教授は、中小企業の「活力向上」の源泉について言及。経営者自身が常に源泉でいることは難しく、特に日々の業務に追われる中小企業においては、周囲の協力が不可欠であると指摘しました。今回の取り組みでは、学生からの新鮮なアイデアが経営者を元気づけ、長期的なビジョンを描くきっかけとなったことが強調されました。これは経営者だけでなく、周囲の人々が助け合い、前に進む「コミュニティ」の重要性を示すものだと、阿久津教授は改めて感じたといいます。
一般社団法人社会的健康戦略研究所の浅野氏は、このピッチコンテストの意義について言及。学生に企業活動を知ってもらい、将来の健康経営を担う人材として育つことを目的とし、同時に企業が抱える課題を学生が解決する場を提供することで、双方にメリットが生まれる構造であると説明しました。5年間の継続を経て、学生が企業のことを深く知らないからこそ投げかけられる「素直な疑問」が、企業に「気づき」を与え、新たな視点を生み出すという相乗効果が生まれていると語りました。これはGoogleが提唱した「心理的安全性」にも通じるものであり、世代を超えた忖度のない意見交換こそがイノベーションの源泉となる可能性を秘めていると示唆しました。
次に登壇した企業側の代表者からは、健康経営の実践に関する具体的な取り組みが語られました。ベイラインエクスプレスの森川社長は、健康経営を単なる「ツール」や「制度」で終わらせたくないという思いを表明。例えば単に健康的な飲料を置くだけではなく、社員同士のコミュニケーションが生まれるような工夫をすることで、職場の雰囲気を変え、その変化を語れる企業を目指したいと語りました。
三幸土木の宮治さんは、健康経営を始めた当初、社員からの反発があったことを率直に明かしました。しかし継続する中で、取り組みが社員間のコミュニケーションを円滑にする効果があることに気づいたといいます。社長のおごりでサウナに行く企画を例に挙げ、多様な社員の声を吸い上げ、次の企画に活かすことで、社員が自主的に関わるコミュニティが醸成されていった様子を共有しました。
このパネルディスカッション全体を通して、健康経営が単なる社員の健康維持だけでなく、社内外の多様な人々との対話を生み出し、企業の活力やイノベーションを創出する重要な戦略であることが改めて浮き彫りになりました。
編集後記
今回の研究会は「健康経営」というテーマを通じて、参加者から多くの気づきを引き出しました。
健康経営が単なる福利厚生ではなく、企業の未来を創造する羅針盤であることが、参加者全員の共通認識となりました。これは、健康経営をコストではなく、企業の持続的成長を力強く後押しする「投資」として捉え直すきっかけになったと感じます。
参加者の皆様からは「自社だけでは到達し得なかった視点が得られた」と手応えを感じる声も聞かれました。業界や企業の垣根を越えた対話が、新たな価値創造につながることを改めて実感した時間でした。
来年度も、さらに深い議論が生まれることを期待しています。

【企業データ】
会社名:三幸土木株式会社
事業内容:土木建築一式工事/建築資材の販売/砕石、砂利の採取及び販売/産業廃棄物収集運搬業/前各号に付帯関連する一切の業務
所在地:〒470-0103 愛知県日進市北新町北鶯91-5
資本金:30百万円
社員数:103名
会社名:ベイラインエクスプレス株式会社
事業内容:高速バス・夜行バスの運行/企業送迎バスの運行/人材紹介
所在地:神奈川県川崎市川崎区塩浜2-10-1
従業員数:42名
資本金:20百万円
社員数:42名