社員が輝く。挑戦と自走を支える企業の極意とは(ダイサンドット株式会社)
働く人の日々の活力が組織全体にもたらす力強い成長。それはまさに、社員一人ひとりが「やりがい」や「働きがい」を感じ、その存在が尊重される環境で、自らの可能性を最大限に引き出し、新たな挑戦に意欲を燃やす。
ダイサンドット株式会社さんが実践する経営の根底には、「社員を大切にする」という深い想いが流れています。どのようにしてこの独自の文化を築き上げ、社員の活力を企業の成長へと繋げているのか。その秘密に迫ります。

ダイサンドット株式会社:左から順に 真野 貴恵さん(管理部総務課 係長)、田中 知克さん(代表取締役 社長執行役員)、伊藤 尚輝さん(総務課)
1.異端の挑戦者!先代との衝突から生まれた新たな「存在意義」
――田中社長は先代から会社を継がれてからどのようなことをされてきたのでしょうか?また、先代との間に大きな衝突などなかったのでしょうか?
田中 知克さん(以下、田中さん):私が会社に入社したのは平成2年、約34年前です。その頃の会社は、部品加工がメインで、図面があるものを形にするだけの下請け企業でした。私は入社時から「メーカーになりたい、設計をやりたい」という強い想いがあり、設計や営業はもちろん出来る事は何でもこなしました。
そして、34歳で社長を引き継いだのですが、実はその裏には先代との激しい衝突がありました。父は当時まだ60代前半でバリバリの現役でしたから、変わりゆく会社の姿に「大丈夫か?」と何度も問われました。私も求める会社の姿に進退をかける覚悟で挑んだ大喧嘩でしたね。

――それは壮絶な話し合いですね。何故田中社長はそこまでして会社を変えたかったのでしょうか?
田中さん:会社の未来に対する危機感です。私が継ぐ少し前、平成7年阪神大震災の年に、会社が経営的に非常に厳しい時期を経験しました。銀行からは見放され、身動きが取れない状態の中で、どうやって会社を存続させ、成長させるかということを模索してきました。その中で見出したのが、「存在意義」という言葉です。これは当社の理念ではなく、原点と位置付けています。必要とされる会社であり続けること、そして社員に「この会社でやってほしい」と求められる企業であること。この強い想いが、会社の変革を推し進める原動力となりました。
2.時代の先を読む「キーワード戦略」
――御社はこれまで、幅広い事業展開をされてきていますがその背景には、どのような経営哲学があるのでしょうか?
田中さん:私たちの営業戦略は「キーワード戦略」と呼んでいます。これは、世の中でこれから何が必要とされるのか、ということを常に考えながら事業分野を決めていくアプローチです。例えば、自動車産業では、私たちはブレーキとモーターの分野に特化しています。これは、EV化が進む中でモーターの需要が多岐にわたると予測し、エレベーターなど車以外の分野にも応用できると考えたからです。

――時代の変化を先読みし、そのニーズに応えるということですね。しかし、まだ世に出ていない技術や将来のニーズを予測し、形にするというのは、非常に難易度の高い経営が求められるのではないでしょうか?
田中さん:まさにその通りです。当社の理念には「興味新進」という言葉があります。新しいものに対し、自ら深く興味を持ち、一歩踏み出すことを常に大切にしています。例えば、2008年のリーマンショック時には、家電リサイクル法が施行された背景から、プラスチックの分別が非常に難しいという課題に直面していました。当時はビジネスになるかどうかも不透明でしたが「量産する機械」を作ってきた会社として、その逆である「分解し、元に戻す」技術に挑戦したいという想いがあり、その再生技術のための機械開発に乗り出しました。
今ではそれが資源循環ビジネスとして非常に重要になっていますが、当時は未開の荒野、苦労の連続でした。私の会社には、そうした未知の領域にも「なぜ?」から始まり、新しいことに対する「興味新進」を持って挑戦する社員が多いですね。
3.苦難から生まれた「人」への想い
――御社では健康経営に非常に力を入れていらっしゃいますが、活動の根底にはどのような想いがあるのでしょうか?具体的な取り組みも合わせて教えてください。
田中さん:健康経営を本格的に始めたのは8年前、新しい工場を建てる際に「ジムを作りたい」と言い出したのがきっかけです。最初は社員から「社長の趣味かな?」と思われていたかもしれませんね。しかし、その根底には私自身の体験があります。リーマンショックの2008年、そして翌年の2009年に過労と不摂生で体を壊し、半分死にかけるような状態になりました。人工肛門をぶら下げて動けない日々を送り、「このままではいけない」と強く感じたのです。
――それは大変なご経験でしたね。その時の想いが、今の健康経営に繋がっているのですね。
田中さん:その通りです。運動ができない期間を経て、動ける体を取り戻したいという一心でトレーニングを始め、回復していきました。「健康でなければ何もできない」ということを痛感したのです。会社の中にジムを作ることで、社員がいつでも運動できる場を提供したいと考えました。また、正しいトレーニング方法を身につけられる様、トレーナーの指導も受けられる様にしています。

――個人の健康を会社全体でサポートする。具体的な健康経営の取り組みに対し、社員のみなさんの反応はいかがですか?
田中さん:最初は個人任せだった健康経営ですが、社員の盛り上がりに限界を感じた時期がありました。そこで「チーム制」を導入したのです。5人から7人のグループを作り、チーム対抗で健康活動に取り組むようにしました。毎日5,000歩以上歩くことと、月に1回インボディ測定を義務付け、それ以外は各チームで食事や睡眠、歯磨きなど、健康に関することなら何でも目標を設定して取り組むようにしています。成果を手書きのグラフで可視化することで、チーム間で競争意識が生まれ、健康への意識が高まると同時に社員同士のコミュニケーションが活発になりました。
――チームで取り組むことで、一体感が生まれるのですね。社内コミュニケーションを活性化させるため、他にも行っている取り組みはありますか?
田中さん:社内ラジオ放送もその一つです。月2回、20分程度の番組を配信していて、私は会社の歴史や理念を語ったりしています。社員の行動指針「クレド」は、入社数年の若い社員たちが自分たちの言葉で作ってくれたものです。社内ラジオでは、そのクレドを作った社員が振り返り、今の自分たちの行動にどう活かされているかを語ってもらっています。これは単に知識を伝えるだけでなく、彼らの「存在意義」を再確認し、会社への帰属意識を高めるためのインナーブランディングの一環です。いつでも好きな時に聞けるので、海外出張などで不在がちな社員も会社との繋がりを感じてくれています。社員の多くが、「まずやってみよう」という前向きな姿勢でいられるのは、こうした文化があるからだと感じています。
4.人と文化の未来を育む「採用と教育」
――社員一人ひとりの健康とエンゲージメントを重視されている御社では、人材育成や採用にも独自の考え方があるように感じます。どのようなアプローチで未来を担う人材を育てていらっしゃるのでしょうか?
田中さん:私たちは毎年、新卒採用を継続しています。これは「技術は人に宿る」という信念に基づいています。新卒で採用して若いうちから社内で育てていくことが、技術力のある強い会社にするためには不可欠だと考えています。最近では、大学と連携し、文系学生にも製造業の魅力を伝える講義を行ったり、インターンシップを受け入れたりしています。私たちは「労働力」ではなく、「考動力」のある人材を求めています。彼らが自ら考え、0から1を生み出し「変化挑創」に活躍できるよう積極的に関わっています。

――新卒採用だけでなく、中途採用や海外人材の登用にも積極的だと伺いました。多様な人材を迎え入れることには、どのような意図がありますか?
田中さん:はい、中途採用もベトナムからの海外人材採用も行っています。特にベトナムでは、ダイサンのエンジニアになれる様に正社員として採用しています。彼らの新しい風や異なる視点を取り入れることで、社内のバランスを取り、より早く成長できると考えています。
私たちは「3極採用」という考え方で、新卒、中途、海外人材のそれぞれが相互に作用し、成長を加速させることを目指しています。これは、今の時代の変化のスピードに対応するためにも不可欠な「キーワード戦略」の一環でもあります。社員の皆さんには「まずやってみよう」という「興味新進」な姿勢で挑戦を楽しんでほしいですし、実際にマラソンに挑戦するなど業務時間外でも挑戦的な姿を見せてくれています。
【取材後記】

ダイサンドット株式会社さんへのインタビューは、単なる企業の取り組みを超え、経営者の深い「想い」と社員の「生きがい」が響き合う、感動的な体験でした。
田中社長の壮絶なご経験から生まれた「健康でなければ何もできない」という信念が、社員への思いやりへと昇華され、様々な取り組みとして根付いていると感じました。組織を上げて追求する「存在意義」という原点や、「キーワード戦略」に裏打ちされた未来を見据える視点、そして何よりも社員一人ひとりの「興味新進」を刺激し、挑戦を許容する文化は、まさに「IKIGAI経営」の理想的な姿です。
単なるキャリアの成功を追求するのではなく、日々の仕事の中に喜びと意味を見出し、ありのままの自分を受け入れる場所として職場が存在する。社員の心の活力が、企業の持続的な成長へと繋がるということを、彼らの実践から強く学ぶことができました。
【企業データ】
会社名:ダイサン・株式会社
事業内容:産業用機械の企画・設計・製造・販売
所在地:〒485-0016 愛知県小牧市間々原新田629-1
資本金:100百万円
社員数:100名