

【IKIGAI企業インタビュー】社員一人ひとりが主役の会社 三和建設の「ひとづくり経営」(三和建設株式会社)
三和建設は、食品工場や倉庫の建設を中心に、豊富な実績を誇る建設会社です。そんな同社が掲げる経営理念は、「つくるひとをつくる」。なぜ「建物づくり」ではなく、「ひとづくり」なのでしょうか。働きがいや生きがいにまで目を向け、社員一人ひとりが主役になれる仕組みづくりに力を注ぐ、その理由を伺いました。

三和建設株式会社:森本 育宏さん(執行役員・アシスト本部長)、丁 舞香さん(アシスト本部ひとづくりグループ主事)
IKIGAI WORKS株式会社:熊倉 利和(代表取締役)、大橋渉太(新規事業開発・営業マネージャー)
1.トップダウンから理念重視の経営へ急ハンドル
――はじめに、御社の事業内容を教えてください。
森本さん:当社は、食品工場や倉庫などの生産・物流施設をはじめ、オフィス、マンション、商業施設などの設計・施工を手がける建設会社です。
昭和22年創業なので、今年で79年目になります。森本多三郎が大手ゼネコンから独立して創業しました。非常に豪快な人物で、独立時に優秀な人財が何人もついてきたと聞いています。
――森本さんは創業者と同じ苗字ですね。創業一家ですか?
森本さん:はい。多三郎は祖父で、父が3代目、兄が4代目になります。私は4人兄弟の3番目になります。当社の創業は戦後まもない時代でしたから、日本の復興とともに会社も成長していきました。当時はまだ小さな会社でしたが、社員の仕事ぶりを高く評価していただくことが多く、そうした信頼の積み重ねが、やがてサントリーのウイスキー工場など、大型案件の受注につながっていきました。

――それはすごい。親から子へ会社を受け継ぎながら、人財を大切に育て、発展してきたのですね。
森本さん:そうなのです。とはいえ、順風満帆だったわけではありません。父が継いだときにも、兄が継いだときにも、さまざまな問題がありました。とくに2000年頃、「コンクリートからひとへ」というキャッチフレーズのもと、建設業が逆風にさらされたことがありました。金融再編の影響も強く受け、多額の借金を背負ったこともあります。2000年から2005年は、当社にとって非常にしんどい時期でした。
――どのようにして乗り切られたのですか?
森本さん:まずは不動産を売却して借金を返済したのですが、それだけではどうにもなりませんでした。結果として、社員をリストラするという苦渋の決断に迫られました。つらい時代でしたね。
あのときに悟ったのは、従来の体質のままでは、ひとを大切にすることも、ひとを活かすこともできないということです。その経験から「家業から事業へ」という旗を掲げ、トップダウン型の経営から、理念に基づいた経営へと、大きく舵を切りました。
舵取りは、現社長の森本尚孝や当時の役員たちでした。兄は2008年に4代目として社長に就任し、「つくるひとをつくる」という経営理念を掲げました。そして、残った社員たちとともに、「ひとをしっかり育てる会社にしよう」と立て直していきました。
2.ひとを育て、信頼を築く
――建物をつくる建設会社でありながら、「つくるひとをつくる」という経営理念を掲げている。これは、なぜでしょうか。
森本さん:建物も、お客様も、仲間も、技術も、信頼も、すべてはひとがつくります。だからこそ、ひとが大事であり、人財を育てていくことでお客様に満足いただける建物を築くことができます。
そうした信頼されるひとを育てていくことに、会社の存在意義があると、私たちは考えています。そのことを「ひと本位主義」という言い方もしています。社員一人ひとりが代わりのない「主役のような存在」であり、それぞれの主役が200人集まって三和建設を築いている、という考え方です。
実をいうと、当社では会社の売り上げはさほど重視しておらず、社員一人ひとりが付加価値をいかに生み出していけるかに重きを置いています。会社の規模も、適性以上に拡大しようとは考えていません。それよりも大事なのは、経営理念に基づいたブランドイメージです。

――なるほど。人財を磨き上げるよって「三和建設」というブランド力を唯一無二のものに高めているのですね。
森本さん:ええ。ありがたいことに、お客様からは、社員一人ひとりのスキルの高さや対応力、そして仕事に向き合う真摯な姿勢などを高く評価いただいています。
――では、御社ではひとを磨くために何から始めたのか。ぜひお聞かせいただけますか。
森本さん:まずは「ひとが成長しやすい仕組みづくり」を始めました。たとえば、東京支店を東京本店へと昇格し、大阪本店・東京本店の2本店制にしました。それぞれの本店に決裁権があり、下から上に昇格しやすい仕組みを整えました。
次に、「SANWAアカデミー」という社内大学を設けました。全員成長・全員活躍の理念のもと、講師も社員、シラバス(学びの設計書)をつくるのも社員です。
――シラバスまでつくっているとは、大学そのものですね。SANWAアカデミーの発案者は社長ですか?
森本さん:いいえ。実は、そうではないのです。設計部門にアイデアマンがいて、彼が「各部門のノウハウやマニュアルをみんなで勉強することが、会社の発展には絶対に必要だ」と提案してきたのです。それがSANWAアカデミーのはじまりで、かれこれ8年です。現在の講座数は44。毎月第3水曜日に開校をしています。

仕事というのは、1人ひとりが取り組んでいく中でノウハウが築かれていきますが、それはアウトプットしない限り、体系化されません。そのままにしてしまうと、たとえば引継ぎが必要になった際、大変なことになります。ですが、自分の「虎の巻」を他の社員たちに教える機会があれば、社内の共通知識にできます。しかも、社員同士の学び合いによって、現場の質が底上げされていきます。そこで、会社全体で取り組む形で、アカデミーを立ち上げたのです。
最初は、入社10年以上のベテラン社員数十人を講師にして、120講座ほどつくりました。ただ、講師には得意・不得意がありますからね。そこで、2年目以降は講座内容や教え方をブラッシュアップしながら、より実践的で伝わりやすい形に整えていきました。
――講座の内容はどんなものがあるのですか?
森本さん:当社は建設会社ですから、工事を請け負って、建設をし、引き渡し、不備なく建物を使用できる、という一連の流れに問題のないことが、ベストなシナリオです。ですから、設計と施工の分野の講座が多いですね。他にも見積もりや調達、営業などの講座もあります。「水滴や水蒸気の課題」など、食品工場の建設ならではの講座もあります。
SANWAアカデミーは、新人教育にも役立つんですよ。新人は「さあ、仕事をしてください」と現場に立たされても、何をどうしてよいかわからない。でも、講座を受講すると、専門用語に触れることになります。その用語を現場で耳にしたとき、「この言葉は講座で聴いたぞ」と、先輩に尋ねやすくなるのです。
入り口の間口は広く、入社後に人財をじっくりと育てていく。これが当社のスタイルです。
3.「前工程は自分ごと、後工程はお客様」
――御社は、Great Place to Work® Institute Japanが実施する「働きがいのある会社」ランキングにも選出されていますね。「働きがい」の面で日本のトップクラスだと評価された証です。
森本さん:ありがとうございます。この組織は、世界中の企業を対象に、「ここは働くひとにとって本当に優れた職場かどうか」を評価し、一定の水準を満たした会社を「働きがいのある会社」として発表しています。
当社は、2015年から2021年まで7年連続で「ベストカンパニー」に選出されました。2021年には中規模部門(従業員100~999人)において、建設業界で第1位を獲得しました。

そもそも、社員が「出ましょうよ」と言ってきたんです。「うちの会社は、働きがいが浸透しているから、出たほうがいい」と。「じゃあ出てみようか」と軽い気持ちで参加しました。
すると、高い評価をいただきました。SANWAアカデミーなど、社員の働きがいを高めるためのさまざまな取り組みが評価されたのだと思います。
また、連続して申請していると、当社の弱点が明確になっていきました。その弱点を分析し、改善を重ねることで、社員の働きがいをより高めることができました。例えるならば、 “会社の健康診断”のようなものですね。
今は、エンゲージメントサーベイなどのアンケート調査を活用して、社員の働きがいの“定期検診”を行っています。
――それは素晴らしいですね。そうして一つひとつ丁寧に、社員の働きがいを育ててこられた御社ですが、残業時間と働きがいのバランスはどのように考えていますか?
森本さん:建設業は進行が立て込むと、時間の管理がどうしても難しくなります。とはいえ、ひとが集中できる時間には、やはり限度があります。それ以上は、どうしてもパフォーマンスが下がってしまう。たとえば、1人で10時間残業するならば、5人で2時間ずつ残業したほうが、単純に考えて生産効率は高いのです。

そこで当社では、両本社の工事アシスタントが、現場の所長などに「今日は、残業になりそうですか?」と確認する仕組みをつくっています。もし、「忙しくてひとが足りない」というときには、翌日に人財を回すことで、その日の残業時間を減らす。この確認作業は毎日行っていて、かなりのパワーを費やしています。
――すごい仕組みですね。ただ一方で、「この仕事はどうしても自分でやり遂げたいから、残業をもっとしたい」という人もいるのでは?
森本さん:おっしゃる通り、自分でやり遂げたいという想いは、働きがいの大きな源です。使命感や主体性をもって取り組む仕事は、やがて生きがいにもつながっていきます。その気持ちは、会社としても大切にしたいと考えています。
ただ一方で、そうした想いが強いほど、頑張り過ぎてしまうこともある。だからこそ、マネジメント側が働き方のバランスを丁寧に見ていくことが大切だと思っています。健やかに力を発揮し続けるためには、仕事だけでなく、プライベートも大切にする必要がありますから。
私がよく社員に伝えているのが、「前工程は自分ごと、後工程はお客様」という言葉です。仕事の前段階も他人任せにせず、後工程にはお客様へ手渡すような丁寧さを持って取り組む。そうした姿勢を日々の仕事の中で積み重ねていくことが、働きがいを育てるだけでなく、仕事のやりがい、そして最終的には、人生の生きがいにもつながっていくのだと感じています。
4.子どもたちが働きたくなる会社へ
――人財をとことん大切にされている三和建設さん。やはり離職は少ないのでしょうか。
森本さん:新卒から3年間はゼロに近づけたいと思っています。実際、2020年以降はゼロです。一方、30歳手前で辞めていくひとはいます。これは、仕方がないことです。先の人生を見据えたとき、他にやりたいことができるひともいる。そのやりたいことを、たとえば企業内ベンチャーのような形で支えることはできます。
それでも、会社を辞めると決断するのならば、そのひとにはそれだけの理由がある。そもそも、離職のない企業はないと思っています。
私たちにできることは、辞めていく仲間とも良好な関係を保ち続けること。たとえ会社を離れることになっても、三和建設で過ごした時間がその人の財産となり、いつかどこかで一緒に仕事ができるかもしれない。そんな関係性を大切にしていきたいですね。
――人財育成に力を注いでいる三和建設さんだからこそ、優秀なひとほど他社から引き抜かれてしまう、ということもあるのでは?
森本さん:そうですね、実際に転職エージェントから社員に連絡が入ることはあります。ただ、最終的に選ぶのはその社員自身です。
先方が提示する条件以上に、三和建設で働くことに価値や魅力を感じてもらえれば、残る選択をしてくれると思っています。
一方で、当社の理念に共感できない人が離れていくのも、ある意味では自然な流れです。

そのぶん、会社は理念に共鳴するひとたちの集まりとして凝縮され、結果的に組織全体としてのシナジーが生まれていく。人材の流動も、良い悪いではなく、必要な循環だと考えています。
完璧な会社など、この世の中にあるでしょうか。当社は、ここまで来るのに10年かかりました。今もなお、課題は次々に出てきます。
でも、それが面白いんです。課題が出てくるということは、組織が前に進んでいる証拠。それを一つひとつ具体化し、解決していくプロセスにこそ、会社の成長の本質があると感じています。
――最後の質問です。森本さんご自身は今後、どこを目指していくのか、お聞きしてよいですか。
森本さん:三和建設は「ひと本位主義」の会社です。これまでも「ひと」の力によって成長し、発展してきました。これからも社長を中心に、社員とその家族を大切にしながら、「ひとづくり」を通じて100年企業を目指していきます。
一方、私自身は、アシスト本部長という立場で、総務・経理・人事採用・情報企画など、会社の基盤となる業務を統括しています。
そんな私の野望は、今の社員の子どもたちが「三和建設に入りたい」と言ってくれる会社にしていくことです。私は創業者の家系にあたりますが、そうではない社員の子どもたちが、「お父さんやお母さんが毎日楽しそうだから、自分も三和建設で働きたい」と願ってくれる。そんな会社をつくっていきたいんです。
100周年まで、あと21年。ですが、そこを待たずに、もっと早く実現させたいと思っています。
取材後記

三和建設の経営理念「つくるひとをつくる」は、社内制度や取り組みにとどまらず、日々の現場や社員の関係性にまで深く根づいていました。ひとを育てることが信頼を生み、信頼がやがてブランドとなり、働くひとの“生きがい”につながっていく。その丁寧な積み重ねが今の三和建設を形づくっているのだと感じました。
そして何より印象的だったのは、森本さんが語った未来への願い。「社員の子どもが、ここで働きたいと言ってくれるような会社にしたい」。この一言に、経営理念が、働くひとを越え、次世代へと広がっていく力を持つことを実感しました。
ひとを信じ、ひとを育てる。その根底にあるのは、一人ひとりの生きがいを大切にする、温かな会社のあり方でした。
【企業データ】
会社名:三和建設株式会社
事業内容:食品工場・倉庫・社員寮などの生産・物流・宿泊施設を中心に、オフィス・商業施設・マンションなどの設計・施工を手がける総合建設業
所在地:大阪本店 大阪府大阪市淀川区木川西2丁目2番5号/東京本店 東京都千代田区神田紺屋町7 神田システムビル4階
資本金:100百万円
社員数:198人(2024年10月1日現在・常勤社員)