母なる愛が育む、人と地域のウェルビーイング(株式会社セクテック)
岐阜県多治見市に本社を構える株式会社セクテック。地域の安全を守るセキュリティ事業を展開する同社は、社員一人ひとりの心と体の健康に深く寄り添う「健康経営」を地道に実践しています。それは、流行りの制度を導入するのではなく、まるで家族を想うような温かい眼差しで、社員と、そして地域と向き合う「あり方」そのものでした。なぜ同社は、これほどまでに社員の健康に向き合うのか。その取り組みの裏にある想いと物語を、担当者の声から紐解きます。

株式会社セクテック: 矢野明子さん( 総務グループ 広報課 係長)
1.ゼロから始めた、愛あるおせっかい
――本日は、セクテック様が推進されている健康経営について、担当の矢野さんにお話を伺います。そもそも、どのような想いからこの取り組みを始められたのでしょうか?
矢野明子さん(以下、矢野さん): 根底には、「社員の健康は本人やそのご家族にとって大切なものであるとともに、企業にとって貴重な財産である」という社長の考えがあります。私が入社して、ゼロから担当することになったのですが、まず決めたのは「無理せず、続けられることしかやらない」ということでした。背伸びして大きなことを言っても、実践が伴わなければ社員には浸透しませんから。
――具体的には、どのようなことから始められたのですか?
矢野さん: 本当に地道なことです。例えば、健康診断が終わった後には、一人ひとりに必ず私が声をかけるようにしています。「行ってきた?」とか「そんなもの食べてるとまた(数値が)悪くなるよ」とか、うるさく言っていますね(笑)。あとは、毎月健康に関するお便りを作ったりしています。

――まるで、家族に対するお母さんのようですね。
矢野さん: 本当にそんな感じです。でも、地道にコツコツと声をかけ続けることで、少しずつ社員の中に「健康経営だから聞いてくれるんだ」という認識が広まっていくんです。実際に、この取り組みを始めてから、がんなどの病気が早期で発見でき、治療を経て仕事に復帰している社員も数名います。
――会社の年齢構成も意識されているのでしょうか。
矢野さん: はい、それは非常に重要です。他の企業で成功した若手向けの施策をそのまま真似しても、うちの会社ではうまくいきません。従業員の年齢に合った、うちの会社に合ったやり方を見つけていかないと、絶対にマッチしないんです。例えば運動をするにしても、高齢の社員に合わせて、激しいことは避けるようにしています。それが「自社らしさ」につながると思っています。
2.具体的な制度が支える、信頼の輪
――地道な取り組みを支える、具体的な制度についても教えていただけますか?
矢野さん: 各種検診の費用負担には力を入れています。35歳以上の生活習慣病予防検診や、2年に一度の乳がん・子宮がん検診、5年に一度の付加検診は全額会社負担です。インフルエンザの予防接種も一部費用を負担しています。また、50名以下の企業では任意ですが、全社員にストレスチェックを実施し、高ストレス者には会社負担で産業医の面談を受けられるようにしています。
――ワークライフバランスの面ではいかがでしょうか?

矢野さん: 2024年からは、子ども1人につき月20,000円の子供手当を支給し始めました。社員だけでなく、お子さんを含めたご家族の幸福も視野に入れています。また、昨年からはデイキャンプを始めたのですが、社員の家族も無料で参加できるようにしています。仕事中とは違う顔が見えてきて、イベントが終わるとすごく打ち解けて、会話がしやすい状態になるんです。これが業務にも良い影響を与えていて、エンゲージメント、つまり働きがいの向上にも繋がっていると感じます。
――矢野さんの声かけや会社の制度は、管理ではなく「愛」から来ているのだと感じます。
矢野さん: 健康を「管理」にした瞬間に、社員は心を閉ざしてしまいます。管理されたくなんかないですからね。でも、愛をもって関わっているんだということが伝われば、社員も心を開いてくれるんです。やっていることは他社と同じでも、その根底にある想いが違うだけで、結果は全く逆になると思います。
3.社員の健康から広がる、地域貢献の未来
――健康経営の取り組みが、社内だけでなく社外にも広がっていると伺いました。
矢野さん: はい。私には、健康経営のノウハウを地元の企業さんにも広めたいという想いがあるんです。もちろん無料で、お伝えできることは何でもしますよ、というスタンスです。
――それはなぜですか?
矢野さん: 一社だけでなく、地域の企業がみんな健康経営に取り組んで元気になれば、街全体が活性化すると思うんです。それは、私たちが掲げる「地元に密着して、安心して住める街を守る」という理念にも繋がっていきます。

――素晴らしい考えですね。具体的な地域貢献活動もされているのですか?
矢野さん: 「音羽ブルームプロジェクト」と名付けて、会社前の歩道の花壇に花を植える活動をしています。花を植えることで地域の方とのコミュニケーションを図るのも目的の一つです。デイキャンプも、せっかくなら地元を活性化させたいので、多治見市内の施設を使うようにしています。
――そうした活動が、会社の事業にも良い影響を与えているそうですね。
矢野さん: ええ。健康経営の取り組みについて外部でお話しすると、「セクテックって何の会社?」と興味を持ってもらえて、「うちもカメラをつけたいんだけど」と、営業に繋がったこともあるんですよ。
4.健康経営で挑む、会社の未来
――健康経営がエンゲージメント向上や地域貢献、さらには事業にも繋がっているのですね。今後、会社として解決していきたい経営課題は何でしょうか?
矢野さん: やはり一番は求人です。警備業というと、どうしても屋外での厳しい仕事というイメージが先行して、なかなか応募が来ないのが現状です。4年連続で「健康経営優良法人(ブライト500)」に認定していただいていますが、それでも課題は残ります。
――実際には多様な働き方があるのですよね?
矢野さん: そうなんです。例えば、夜間の3時間だけ車両の台数をチェックする仕事など、シニアの方や主婦の方が隙間時間で働ける仕事がたくさんあります。ですが、その働きやすさをうまくアピールしきれていないのが課題ですね。
――ご自身の経験から、力を入れていきたい分野はありますか?
矢野さん: 私自身、介護を経験したので、今後は介護離職をしないための支援に力を入れていきたいです。うちの会社は社員の平均年齢が高いので、今後、親や配偶者の介護が増えることも考えられます。国が推奨する在宅介護をしながらでも働き続けられるように、アドバイスをしたり、より柔軟な働き方を整えたりしていきたいと考えています。
――健康経営が、採用や定着といった会社の根幹を支える力になっていくのですね。
矢野さん: はい。社員が健康で、安心して長く働き続けられる会社にしていくことが、結果的に会社の目標である「地域に密着して、安全な街づくりに貢献していく」ということに繋がっていくと信じています。
取材後記

今回の取材で印象的だったのは、矢野さんが語る「続けられることだけやる」「管理ではなく愛で関わる」という、地に足のついた姿勢でした。セクテック社の健康経営は、経済産業省の認定取得を目的とするのではなく、あくまで「人を大切にする」という経営の本質から生まれた、ごく自然な活動です。
健康診断後の声かけや手厚い福利厚生といった施策(やり方)の根底には、社員一人ひとりの人生に寄り添おうとする温かい想い(あり方)がありました。その想いが社員に伝わるからこそ、施策は形骸化せず、組織の文化として根付いていくのでしょう。
他社の成功事例を模倣するのではなく、自社の社員構成や文化に根差した「自社らしさ」を大切にする。セクテック社の取り組みは、健康経営の本質が、制度の導入ではなく、人と人との温かい関係性を育むことにあるのだと、改めて教えてくれました。
【企業データ】
会社名:株式会社セクテック
事業内容:セキュリティシステム、防犯カメラ、機械警備、貴重品運送業、AEDレンタル、パッケージコール代行サービス
所在地:〒507-0041 岐阜県多治見市太平町6-162
資本金:30百万円
従業員数:25名