人を信じる経営が、斜陽に光を灯す(鳴本石材株式会社)
墓石業界は「斜陽産業」と言われて久しい。しかし、そんな逆風の只中で「むしろチャンスだ」と穏やかに笑う経営者がいます。鳴本石材株式会社の鳴本 太郎社長です。偉大な創業経営者である父の背中を見つめ、彼はなぜカリスマを目指すのではなく、「社員が主役になれる環境づくり」を使命としたのか。そこには、人の可能性を信じ、企業の存在意義を問い続ける、静かで力強い経営の物語がありました。
鳴本石材株式会社: 鳴本 太郎さん(代表取締役)
1.斜陽産業で見つけた希望
――本日はありがとうございます。まず、御社が置かれている業界の現状と、それに対するお考えからお聞かせいただけますか。
鳴本 太郎さん(以下、鳴本さん): はい。弊社は1971年に私の父が創業した、墓石を主に取り扱う会社です。ご存知の通り、この業界は一般的に「斜陽産業」と言われています。人口が減り、お墓に対する価値観も多様化しましたから、市場が縮小しているのは事実です。最近は「墓じまい」がブームと言えるほど増え、地方のお墓を都市部に移したり、樹木葬や散骨といった、お墓を必要としない供養のスタイルも当然増えてきています。

――採用活動にも影響はありそうですね。
鳴本さん: ありますね。合同企業説明会に出展しても、学生さんはなかなか来てくれません。石材、しかもお墓となると、どうしてもネガティブなイメージを持たれがちです。最近では、親御さんから「お墓の会社って大丈夫なの?」と心配されて内定を辞退する、いわゆる「親ブロック」も現実にあります。本人はやる気になってくれているのに、本当に残念ですが…。
――業界全体が厳しい逆風にさらされている中で、悲観的になることはないのでしょうか。
鳴本さん: もちろん半分は焦っていますよ(笑)。どう見ても悲観的にならざるを得ない状況ですから。ただ、非常にニッチな業界で、弊社の全国シェアはわずか1%か2%程度なんです。仮に市場が半分になったとしても、我々がやれることはまだまだたくさんある。むしろ、ちゃんと真面目に汗をかいて頑張った企業が評価されて残っていく時代。これはチャンスじゃないか、と思うようにしています。トヨタ自動車のように国内シェアを大きく持っているなら喫緊の課題ですが、1%や2%しかない企業が市場の縮小を嘆いていても仕方がない。やるべきことをしっかりやってからです。
――亡くなった方を弔うという文化そのものはなくならない、と。
鳴本さん: そうです。形は変わっていくでしょうけど、個人を偲ぶ気持ち、供養する気持ちという日本人の精神文化そのものは、決してなくならないと信じています。ですから、本質的なものは変わらないだろうと。そう前向きに考えています。
2.ハイブリッド型の新しいリーダー像
――お父様が創業者でいらっしゃいますが、事業を承継される際にはどのようなことを意識されましたか。
鳴本さん: 父はいわゆるカリスマ経営者でした。強力なトップダウンで会社をゼロから創り上げ、大きくしてきた人です。そのおかげで厳しい時代も生き残れたので、そのやり方を否定するつもりは全くありません。ただ、自分が同じやり方を真似しようとしてもできないことは、最初から分かっていました。創業者と私とでは、そもそも立場が違いますから。
――ご自身のスタイルを模索されたのですね。
鳴本さん: 実は、私が代表を継ぐ少し前から、お取引先で事業承継がうまくいかない事例をたくさん見てきたんです。うちは卸売り業なので400社から500社のお取引先があり、その多くが同族経営です。そこで、親子や兄弟間の対立、古参社員との確執…。自分のカラーを出しすぎて、組織がバラバラになってしまうケースを目の当たりにして、自分ならどうすべきか、ずっとシミュレーションしていました。
――その経験から、どのような結論に至ったのでしょうか。
鳴本さん: 割と早い段階で、自分自身が会社の“スーパースター”であることを諦めたんです。父はスーパースターでした。でも、自分は違う。自分の役割は、スーパースターになることではなく、たくさんのスーパースター、つまり社員たちに気持ちよく働いてもらい、最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作ることだ、と自分の使命を切り替えました。トップダウンでもボトムアップでもない、両方の良いところを取るハイブリッドな経営を目指そうと決めたんです。
――ホームページの「当社の主役は社長ではなく『社員』です」という言葉は、まさにその想いの表れですね。
鳴本さん: そうですね。人が輝かなければ、組織は輝かない。社員一人ひとりが主役であるという高い志を持ってもらう。それが私の理想です。
3.理念刷新と第二創業の決意
――経営の軸足を「自分」から「社員」へと移されたのですね。その想いを強くする、何か大きなきっかけがあったのでしょうか。
鳴本さん: それはもう、たくさんありますよ。失敗も山ほどしてきましたし、社員が辞めていったことも当然あります。中でも大きかったのは、工場の幹部社員が、荷物の配達中に交通事故に遭ってしまったことです。片足を切断するほどの大事故でした。幸い、彼は今も工場長として元気に働いてくれていますが、当時は本当にショックでしたね。
――(返す言葉に詰まる)…。
鳴本さん: 「社員の幸せを願う」と理念で語りながら、自分は何もできていないじゃないか、と。もっとこうしていれば防げたのではないかと、自分を責めました。経営者として、社員の人生を守ることの重さを痛感しました。

――その痛ましい経験が、経営理念をより深めることにつながったのですね。
鳴本さん: はい。創業50周年を迎えた2021年、コロナ禍ではありましたが、これを機に「第二創業」のつもりで経営理念を刷新しました。幹部社員と1年かけて議論し、ミッション・ビジョン・バリューを再定義したんです。その時に、自分の経営者としての背骨が一本通った感覚がありました。
――新しい理念の核となるのは、どのような考え方でしょうか。
鳴本さん: 「主体性」です。言われたことを真面目にやるのも素晴らしいですが、これからの時代は、社員一人ひとりが自分で考え、動き、会社を良くしていくんだ、という意識が不可欠です。ですから、採用基準も「優秀かどうか」ではなく、私たちの理念、価値観に共感できるかどうか、その一点に絞りました。どんなに優秀でも、同じ船に乗れない人は採用しない。経営者としての我慢も必要ですが、そこは譲れません。
4.社員が輝く環境づくり
――理念を刷新されてから、会社にはどのような変化がありましたか?
鳴本さん: 作った理念を、いかに社員の「血肉」にしていくか。それが一番重要だと考えています。ですから、理念で掲げる人材像を人事評価ともしっかりと紐づけています。ただお題目を唱えるだけでなく、理念に基づいた行動がきちんと評価され、成長につながる仕組みを回していく努力を続けています。
――まさに、理念に魂を入れる作業ですね。経営計画なども、以前とは変わりましたか?
鳴本さん: 経営計画については、5カ年計画のようなものはもう作りません。一度作ってみましたが、2年目には完全に無視していましたから(笑)。環境の変化が早すぎて、1年先すら分かりません。数字の計画よりも大事なのは、「我々は何のために存在するのか」という会社の存在意義を共有することだと思っています。

――なるほど。
鳴本さん: 「理念で飯が食えるか」と言う人もいますが、私はこう思うんです。理念がなくても飯は食える。でも、その飯はうまいんですか?と。理念という背骨があるからこそ、日々の仕事に意味が生まれ、味わい深いものになる。そう信じています。スーパースターである社員たちが、それぞれの持ち場で主体性を発揮し、輝ける環境を整える。それが、経営者としての私の役割です。
取材後記
今回の取材で明らかになったのは、鳴本社長の経営が、偉大な創業者である父の模倣ではなく、自らのあり方を深く見つめ直すことから始まっている点でした。彼は、自らが「スーパースター」になることを手放し、社員一人ひとりが主役になれる「場」を耕すことを自らの使命と定めたのです。
まさにこれこそが、個人の幸せと組織の持続可能性を両立させるIKIGAI経営の実践と言えるでしょう。社員の事故という痛ましい経験にも真摯に向き合い、それを理念へと昇華させるプロセスは、企業のあり方を深く問い直すものです。「理念ナシで飯はうまいんですか?」という言葉は、成果や効率だけを追求する経営への根源的な問いかけでもあります。鳴本石材の物語は、斜陽という厳しい現実の中でさえ、人を信じ、社員の主体性に希望を見出すことで、未来は切り拓けるということを、静かに、しかし力強く教えてくれます。
【企業データ】
会社名:鳴本石材株式会社
事業内容:石材製品(墓石・建築・造園・モニュメント等)の製造及び輸入卸販売
所在地:〒714-0062 岡山県笠岡市茂平2918-23
資本金:80百万円
従業員数:65名(グループ全体130名)