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【セミナーレポート】健康経営は従業員との絆を深める最強の戦略(協会けんぽ鳥取支部主催「健康経営実践セミナー」)

人口減少が進み、企業経営のあり方が問われる今、注目されているのが健康経営です。2025年1月、協会けんぽ鳥取支部主催の「健康経営実践セミナー」がオンラインで開催されました。基調講演では、IKIGAI WORKSの熊倉利和が「人口減少時代の経営戦略としての健康経営」をテーマに講演。続く第2部では、健康経営の取り組みで知事表彰を受賞した株式会社清水の代表取締役社長・清水昭生氏が、自社の成功事例を紹介しました。第3部では、協会けんぽ鳥取支部が推進する「健康経営マイレージ事業の表彰制度」についての解説が行われました。本記事では、各講演のポイントをレポートします。

基調講演:熊倉 利和(「IKIGAI広場」編集長/IKIGAI WORKS代表取締役)
事例紹介:清水 昭生さん(株式会社清水 代表取締役社長)
健康経営マイレージ事業の表彰制度:江上 輝さん(全国健康保険協会鳥取支部 企画総務グループ)

1.【基調講演・熊倉】健康経営って本当に効果があるの?

「健康経営って、結局、コストがかかるだけじゃないの?」

これは、講演の際、たびたびいただく質問です。私はいつもこう答えます。

「健康経営はコストではなく、人を活かし、企業を成長させる経営戦略です」

今、日本は人口減少社会に突入しています。企業の未来を左右するのは「人財」。しかし、日本の企業は、その貴重な「人財」を活かしきれていない現状があります。

たとえば、アメリカのギャラップ社が2021年に実施した調査では、「熱意を持って働く従業員」の割合は世界平均23%に対し、日本はわずか5%。これは世界最下位です。アメリカやカナダは34%、情勢が不安定な中東ですら16%。日本はその数字も大きく下回っています。

また、こんなデータがあります。内閣府の調査によると、「自分に満足している」と答えた日本の若者はわずか45%。これは、先進国の中でも異常に低い数字です。最も高い国はアメリカで87%、お隣の国の韓国も73.5%にも上るのです。

とはいえ、自信を失っているのは若者だけではないでしょう。私たち大人世代の働く姿勢や意欲が、若い世代に大きな影響を与えているのも事実です。

ではなぜ、日本では熱意を持って働く従業員の割合が少ないのでしょうか。

背景には、経済の停滞と、働くことへの不安があるのだと思います。実際、国際通貨基金(IMF)の推計では、日本のGDPは2025年にインドに抜かれ、世界5位に転落する見通しです。

「このまま頑張っても、未来はよくならないのではないか」

そんな漠然とした不安が、働く人や若い世代の自己肯定感を失わせ、企業の活力を低下させていると、考えられるのです。

こうした状況を打開するために、「AIやロボットの活用が解決策になる」という意見もあります。たしかに、AI技術の発展により、将来、日本の労働人口の約49%が自動化されるという予測もあります。

しかし、AIがどれほど発達しても、「新しいアイデアを生み出す力」「問題を解決する力」を持つのは人間だけです。AIとは、それを使いこなせる能力のある人が活用して初めて生きるもの。そんな能力を最大限に発揮できる人財とは、「元気で、意欲的に、情熱を持って働ける従業員」です。

つまり、企業成長に最も重要なのは、従業員がイキイキと働ける環境を築くこと。健康経営とは、そのための経営戦略となる最高の「投資」なのです。

2.【基調講演・熊倉】健康経営が企業の「新たな価値」を創出する

現在、企業には「人的資本経営」が求められています。

人を「コスト」ではなく「資本」と捉えて「投資」の対象とすることで、人財の価値を最大限に引き出していく。それによって中長期的な企業価値の向上を図る経営こそが、人的資本経営です。 

この人的資本経営のあり方を、私たちIKIGAI WORKSでは「人を幸せにする経営」と呼んでいます。

「人を幸せにする経営」とは、「従業員が心身ともに健康で、働きがいと生きがいを持って、会社とともに成長できる環境を築くこと」。そうした経営によって、企業価値は向上し、持続的な成長が可能となる、と私たちは捉えています。 

では、どうすると「人を幸せにする経営」を行えるでしょうか。 それこそまさに健康経営を行うことです。

健康経営の導入により、従業員にとって居心地のよい職場が実現され、従業員満足度(ES)が上がります。従業員は能力を発揮しやすくなる一方で、離職率・休職率が低下します。

すると、従業員の企業に対する愛情は高まり、企業ブランドが構築されることで、新しい事業領域、新しい自社市場が生まれやすくなります。

つまり、健康経営は、単なる福利厚生ではなく、企業の成長戦略そのもの。健康経営の実践が、結果として「人的資本経営」の本質を形づくっていくのです。

しかも、健康経営は、ビジネス・マッチングの実現という可能性を生み出します。実際、健康経営という共通点を通して、企業と企業、業界と業界、産業と産業など、これまでにない新しい連携が生まれてきています。

このように、健康経営を行うことで、従業員の健康と働きがいを基盤に、企業の新たな価値を生み出す「好循環」を築いていけるのです。 

今、「人を幸せにする経営」の重要性に気づき、健康経営を始める企業が飛躍的に増加しています。ただし、中小企業社数全体で見ると、認定取得比率は0.4%に過ぎません。

よって、今、健康経営優良法人の認定を取得することは、人財確保や業績向上の観点からも最高のビジネスチャンスなのです。

3.【基調講演・熊倉】リライアンス・セキュリティーの健康経営戦略

健康経営を行うことは、「コスト」ではなく「投資」。そのことを具体的にイメージしていただくために、健康経営を導入し、成長につなげている企業の事例を紹介します。

今回ご紹介するのは、広島県の警備会社リライアンス・セキュリティー株式会社。警備の仕事は、炎天下の夏、凍える冬、どんな環境でも人々の安全を守ることが求められます。

同社が健康経営に踏み切った背景には、ある衝撃的な出来事がありました。前日まで元気に働いていた警備員が、突然、自宅で病死してしまったのです。さらに、警備中の従業員が熱中症で救急搬送される事故も発生しました。

「従業員の健康と命を守ることは、会社の使命だ」

悲しい出来事に遭遇し、決意を固めた田中敏也社長は、従業員の健康リスクを徹底的に排除するため、健康経営をスタートさせました。

では、健康経営を始めるには何から手をつければよいのでしょうか? ここでつまずき、なかなかスタートを切れない企業は少なくありません。

大切なのは、「小さくても確実な一歩」を踏み出すこと。いわば、スモールスタートのアクションプランを立てることです。

リライアンス・セキュリティーでは、「健康状況申告制度」の導入(まずは健康状態を把握)、「健康受診率100%」の実現、「徹底した熱中症対策」「メンタルヘルスケアの強化」と、一歩ずつ施策をステップアップさせていきました。

さらに、社長自ら現場を回り、従業員の健康状態を直接確認する取り組みも行っています。こうした健康経営の実践は、

「会社はあなたたちを必ず守る。だから安心して仕事に集中してほしい」

という、強いメッセージともなります。

「自分は大切にされている」という自信は、働く人の意欲を確実に高めます。自分を大切にしてくれる会社に対して、従業員は信頼と愛着を感じ、仕事に前向きに取り組むようになります。つまり、健康経営とは「従業員向けのマーケティング」。従業員に「ここで働き続けたい」と実感してもらうための重要なアプローチなのです。

また、リライアンス・セキュリティーでは、田中社長がまるで従業員たちの〝お父さん〟のように、厳しくも愛情たっぷりに従業員たちを守り、そして健康経営の担当者である有田恭彰さん(執行役員採用教育研修部長)が従業員に無償の愛を注ぐ〝お母さん〟的存在できめ細やかなケアを行っています。

この経営陣の存在が、従業員一人ひとりに安心感と信頼をもたらし、リライアンス・セキュリティーの独自のブランド価値を築き上げているのです。

リライアンス・セキュリティーが目指すのは「警備業界のテーマパーク」。テーマパークのキャストがお客さまをもてなし、楽しませることに徹しているように、同社では「警備を通じて感動を生み出すこと」を大切にしています。従業員一人ひとりが誇りを持って働ける環境をつくる土台にこそ、リライアンス・セキュリティーの健康経営があるのです。

では、健康経営の成果は現れているのでしょうか。リライアンス・セキュリティーでは、人財の確保に成功しています。警備業は「3K(きつい・危険・厳しい)」といわれ、一般になり手が少ない仕事です。しかし、リライアンス・セキュリティーはこのイメージを見事に塗り替えました。

「この会社で働きたい」という人が集まってきているのです。

実際、人手不足のこの社会で、2021年から従業員は30人増加し、現在は230人以上。そのうち女性は18人。「警備は男の仕事」というイメージがありますが、「この会社で警備の仕事をしたい」「ステキな仕事」と女性たちが入社を希望してくるのです。

くり返しますが、企業の成長の原動力は「人財」です。その「人財」を確保し、最大限に活かすための経営戦略こそが、健康経営です。

健康経営を実践することで、従業員の健康が守られ、働く意欲が高まり、組織の活力が生まれる。それはやがて、企業文化の向上となり、ブランドイメージを高め、優秀な人財を引き寄せる力となります。

さらには、生産性の向上や業績アップといった、企業全体の成長へとつながっていく。こうした変化を体験した企業は、口をそろえてこういいます。

「健康経営は、コストではなく未来への投資」

この選択が、企業の持続的な成長を支える大きな一歩になるのです。

4.【事例紹介・株式会社清水】健康経営で築く持続可能な成長

「健康な体があってこそ、仕事の質も上がる」

株式会社清水が健康経営に本気で取り組む理由は、まさにここにあるのでしょう。「体力増強や従業員の健康づくりを通じて、「人」という資本を最大限に活かすこと。これが、清水の健康経営のモットーです。

同社は、鉄と鋼材の卸売から加工までをワンストップで手がける鋼材加工メーカー。「人と鉄であすを拓く」という標語を掲げ、物づくりに携わる従業員一人ひとりの力を最大限に引き出すことを大切にしています。

健康経営をスタートしたのは2019年。鋼材加工業は、まさに「身体が資本」の仕事です。従業員の体力増強や健康づくりを経営戦略の一環として位置づけ、健康経営に乗り出しました。

健康経営を始めるうえで大切なのは、「できることから始める」というファーストステップ。最初の年に始めたのは、ウォーターサーバーの設置や熱中症対策、アクションプランの発足など、シンプルな取り組みでした。

加えて、「ハーフマラソン完走」「大山登頂」「体重5キロ減」など、従業員それぞれが健康管理の目標を掲げ、達成すれば金一封が贈呈されるというユニークな制度もスタート。これが大きなモチベーションとなり、社内には少しずつ「健康づくり」に対する前向きな空気が生まれ始めたそうです。

2020年、新型コロナウイルスの影響で、保育園や小学校が休園・休校となる事態が発生。「働きたいのに、子どもの預け先がない」。そんな従業員の悩みを解決するため、清水は「社内臨時託児所」を開設しました。

さらに、心肺蘇生やAEDの講習会や腰痛・肩こり予防の講習会など、健康面での支援も拡充。従業員だけでなく、家族の安心も守る健康経営へと進化していったのです。

2021年には、さらに健康経営の輪が広がりました。鳥取砂丘の一斉清掃への参加、従業員の誕生日をお祝いする企画など、「従業員の健康」と「職場の一体感」を育む取り組みが増えていきます。

翌2022年には、古海地区の清掃を実施。これによって「会社の中だけではなく、地域の健康や環境にも貢献しよう」という意識が従業員に生まれていきました。

そして2023年。健康経営の取り組みは、さらに地域を巻き込む形へと進化しました。近隣企業とともにモノづくり体験イベント「モノフェス」を開催し、なんと600人が参加!

清水の健康経営は、すでに会社の枠を超え、「地域を元気にする経営」へと発展していったのです。

こうした取り組みが評価され、清水は「健康経営マイレージ事業協会けんぽ鳥取支部長表彰」「健康経営マイレージ事業鳥取県知事表彰」という2つの賞を初受賞。

さらに2024年には「県税納税者鳥取県知事表彰」も受賞し、企業としての社会的評価も高まりました。

清水の健康経営の最大の特徴は、従業員が自発的に楽しみながら参加できる環境を整えていることです。たとえば、社内には「屋外運動部(キャンプやウォーキングなど)」「屋内運動部(バドミントンやバスケなど)」「インドア部(料理やヨガなど)」という3つのサークル活動があり、毎月2回以上のイベントが実施されています。

その結果、従業員109名のうち89名が参加。延べ参加者数はなんと594名にも上ります。

このサークル活動は、単なる「健康づくり」ではなく、部署を超えた交流の場にもなっています。社内のコミュニケーションが活性化し、チームワークの向上にもつながっています。

健康経営の実施によって従業員の心身の健康が整えば、職場の雰囲気がどんどんよくなる。それによってブランドイメージが高まり、人が集まり、業績も伸びていくのです。

清水の事例発表は、健康経営は「コストではなく未来への投資」であることを改めて教えてくれました。

5.【健康経営マイレージ事業の表彰制度】鳥取県の企業が続々参加

協会けんぽ鳥取支部は、県内企業の健康経営を推進するため、「健康経営マイレージ事業」を展開しています。この事業に参加した企業は、1年間の健康づくりの取り組みを指定のシートで報告。評価の高い企業は、株式会社清水様のように表彰されます。

今年度の参加社数はなんと1254社。多くの企業が健康経営の質を高めるために積極的に取り組んでいることがわかります。

表彰されることで、企業の社会的評価が向上し、優秀な人財の確保や企業イメージの向上にもつながります。従業員の健康づくりを進める企業が増えれば、県全体の活力が高まり、持続可能な地域社会の実現にも貢献していくのです。

取材後記

セミナー終了後のアンケートでは、熊倉の基調講演に対して、「満足」「やや満足」と回答してくれた人が90%以上にもなりました。「『従業員みんなのお母さんになろう』との思いで健康経営に取り組んできたが、『これが経営に役立つのか』と行き詰っていました。今日の講演で健康経営への考え方が変わりました」「健康経営の大切さ、必要性を改めて認識できた」「健康経営の基本の部分が理解できた」「今日の話を聞いて、自分の子どもを育てていくのと同じくらい、従業員への愛情と会話を大切にしていきたいと思った」など、嬉しい感想も数多くいただきました。健康経営の担当者は1人で奮闘しなければならない状況に陥ることも多々あります。そんなときにはIKIGAI WORKSがお手伝いします。
私たちは、社員の働きがいや生きがいを大切にする会社を「IKIGAI企業」と呼んでいます。IKIGAI企業とは、従業員一人ひとりの働きがいや幸せを重視し、支援する企業のこと。そして、IKIGAIとは働く人が幸せになり、組織を成長させ、社会を豊かにするための源泉。従業員のIKIGAIの先に、会社の発展と持続可能な成長があると私たちは信じています。


【企業データ】
会社名:株式会社清水
事業内容:一般鋼材、特殊鋼、鋼管、非鉄の卸販売及び金属加工
取材地:〒680-0921 鳥取県鳥取市古海542番地1 千代金属センター内
資本金:50百万円
従業員数:107人

会社名:リライアンス・セキュリティー株式会社
事業内容:施設警備・交通誘導整備・雑踏警備・身辺警備・セキュリティコンサルティング
所在地:〒730-0845 広島県広島市中区舟入川口町14番22号
資本金:10百万円
社員数:225名

監修者画像

【監修者】熊倉 利和

一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会 代表理事/IKIGAI WORKS株式会社 代表取締役/IKGAI広場 編集長

新卒であさひ銀行(現りそな銀行)に入行後、慶應義塾大学大学院(MBA)を経て、セルメスタに転職、2011年に代表取締役に就任。2021年、IKIGAI WORKS株式会社を設立。
健康経営伝道師として350社と750万人にデータヘルス計画や健康経営のコンサルティングを実施。生きがい・働きがいを持って経営を推進するトップランナーらとのインタビューや講演、イベント開催など健康経営や働きがいの普及啓発に取り組む。今では健康経営、ウェルビーイング、人的資本経営を包含し、「IKIGAI経営」の普及啓発へ公私ともに邁進。IKIGAIオタクとしてすべての社会に「生きがい」を広めることを生業とする。

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