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パルクール経営で育む「自分との対話」。田端の教室が作る大人も子供も輝ける居場所(NEWTAROS )

東京・田端の住宅街、駅からの喧騒が少し落ち着いた場所に、4歳から60歳までが通う「パルクール教室」があります。代表の楠根慎太郎さんが運営する「NEWTAROS(ニュータローズ)」は、単に技術を教える場ではありません。

大学時代に経験した怪我や、教育現場で抱いた違和感を経て、楠根さんが行き着いたのは「人を管理する」のではなく「人が自律的に育つ場」を創るという経営でした。パルクールという身体表現を通じて、いかにして一人ひとりの人間力を育み、心地よい居場所を提供しているのか。23歳で起業した楠根さんの、情熱と冷静さが交錯する経営の物語を紐解きます。

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【監修者】熊倉 利和

一般社団法人日本IKIGAIデザイン協会 代表理事/IKIGAI WORKS株式会社 代表取締役/IKIGAI広場 編集長

新卒であさひ銀行(現りそな銀行)に入行後、慶應義塾大学大学院(MBA)を経て、セルメスタに転職、2011年に代表取締役に就任。2021年、IKIGAI WORKS株式会社を設立。
健康経営伝道師として350社と750万人にデータヘルス計画や健康経営のコンサルティングを実施。生きがい・働きがいを持って経営を推進するトップランナーらとのインタビューや講演、イベント開催など健康経営や働きがいの普及啓発に取り組む。今では健康経営、ウェルビーイング、人的資本経営を包含し、「IKIGAI経営」の普及啓発へ公私ともに邁進。IKIGAIオタクとしてすべての社会に「生きがい」を広めることを生業とする。

NEWTAROS :楠根 慎太郎さん (代表)


1. 運動能力の向上だけではない、自分と見つめ合う「人間力」の育成

——パルクールスタジオ「ニュータローズ」の概要と、そこに込められた目的についてお聞かせください。

楠根 慎太郎さん(以下、楠根さん):ここは60歳まで通える全年齢対象のパルクール教室です。でも、僕はこの教室でパルクールを「技術」としてメインに教えているわけではありません。もちろん技術の提供もしますが、それ以上に、子供たちが安心して通える場所、人生の「サードプレイス」的な場所としてここを位置づけています。パルクールを通じて得られるものは、技術だけでなく「自分自身との対話の仕方」なんです。

——パルクールを通じて自分自身と見つめ合うことが、なぜ経営の核となっているのでしょうか。

楠根さん:僕自身、パルクールをずっと続けてきた中で、身体を通した自分との対話の大切さを学んできました。だからこそ、ここを単なるスポーツ教室ではなく、自分自身と見つめ合い、人間力を育てる場所としてスタートしました。

——対象年齢を4歳から60歳までと幅広く設定し、この田端という地を選んだ理由を教えてください。

楠根さん:僕自身が親子三代で北区に住んでいて、ここは地元なんです。北区は昔から高齢者層と子育て層が多い街です。道を歩けば小さなお子さんがおじいちゃん、おばあちゃんと手を繋いでいる。そんな風景の中で、自分のやってきたパルクールという運動を取り入れて何かできないかと考えました。人口が多い場所ではなく、あえて地域密着型で、地元に恩恵を還元していきたいと思ったんです。

—— 60歳という年齢の区切りには、運営上のどのような背景があるのでしょうか。

楠根さん:スポーツ教室として成立させる上で、保険の適用の兼ね合いが大きいです。60歳を超えると保険のカバーが難しくなり、別個の契約が必要になります。運営の流れも含めて、今は60歳までとさせていただいています。

今後は日本体育大学と協力して、シニア向けの運動プログラムを構築し、60歳以上の方にも何か提供できないかと考えているところです。

2. 型にはめる教育への違和感と、可能性を信じてくれた恩師の存在

——大学3年生の時からプロジェクトを立ち上げられたとのことですが、教育学部から教員ではなく起業の道を選んだ転換点はどこにあったのでしょうか。

楠根さん:もともとプレイヤーとして活動していましたが、大学3年生の時に怪我をして、「プレイヤーとしてはもう無理だ」と突きつけられました。一方で教育学部にいたので、どのみち先生にはなろうとしていたんです。でも、教育実習に行った際、現場を見て考え込んでしまいました。他の社会を知らないまま、「子供はこうだから」と決めつけて指導している場面もある。先生方が、自分のプライドやキャリアを守ることに精一杯になっているように感じてしまったんです。

——一方でご自身の原点には「理想の先生」の存在があるとうかがいました。その出会いについてお聞かせください。

楠根さん:小学校4年生の時の担任、伊藤先生との出会いが大きいです。当時の僕は好奇心旺盛で、夜の学校のプールに入ろうとしたりするような、いわゆる「やんちゃ」で怒られてばかりの子でした。でも伊藤先生は、「それは発想はいいけど、迷惑がかかる場所ではもう一度考えたほうがいい」と、僕を否定せずにポジティブな影響を与えてくれたんです。

パルクールを始めて屋根に登って怒られた時も、「パルクールの本質は何? 怒られること? 違うよね、自分の体を鍛えてパフォーマンスすることだよね」と諭してくれました。「慎太郎のやってるパルクールは応援するから」と、練習できる公園に連れて行ってくれたこともありました。

—— 伊藤先生の存在は、現在の子供たちへの接し方にどのように投影されているのでしょうか。

楠根さん:小学校の時にこういう人がいれば、やんちゃな子でも未来が見える。僕自身、伊藤先生に信頼され、自由さを認めてもらったことでマインドが変わりました。だから今度は僕がその立場になって、子供たちの未来をアシストしたい。パルクールをやるやらないは別として、ここで培った考え方を主軸に持って成長してほしいんです。

—— ご両親からは、ご自身の活動に対してどのような教えを受けてこられたのでしょうか。

楠根さん:親からは「自分が影響を与えた以上は、その人の責任も取りなさい」と教えられてきました。友達を遊びに誘ったなら、何か問題が起きても自分の責任。自分が広めたことは自分で回収する、という姿勢です。パルクールをやりたいと言った時も、最初は「何それ?」という感じでしたが、「本気でやりたいならやってみな」と、父はバイクでいろんな公園に連れて行ってくれました。父もいたずらっ子だったらしく、僕の自由を狭めずに見守ってくれた。その信頼に応えたいという思いが、今の僕のベースにあります。

3. 一人で抱え込む経営から、仲間に責任を分かち合う「チーム」への変容

——実際にオープンして約10ヶ月とのことですが、現在の教室の状況や、利用者の層についてお聞かせください。

楠根さん:現在、会員数は120名弱です。メインは小学校低学年から高学年ですが、親子でやる方や、アクティブな高齢の方もいます。驚くべきは男女比で、女子が6.5割なんです。一般的なパルクール教室は男子が9割と言われる中で、これは非常に珍しい。うちのスタジオが「可愛らしい」見た目をしていて、リスクを排除して安全にスタートできそうだと感じてもらえているからだと思います。

—— 他のパルクールスタジオとは一線を画す「15坪」というサイズや立地の戦略について、どのようにお考えでしょうか。

楠根さん:パルクールスタジオといえば、80坪や100坪の倉庫でやるのが一般的です。でもそれだと郊外になり、アクセスが悪くなる。僕は、子供たちが学校帰りにそのまま来られて、お勉強もできるような場所にしたかった。駅から徒歩6分という立地で、狭いからこそ技術力に力を入れ、密度を高くする。2階の休憩スペースでお母さんたちが待機し、下で練習するお兄ちゃん、お姉ちゃんを邪魔せずに下の子が遊べる。この「物理的に区切られた空間」が、結果として良いあんばいのコミュニティを生んでいます。

——開業にあたっての資金調達や物件探しなど、経営者として直面した具体的な壁について教えてください。

楠根さん:大学生が銀行からお金を借りるなんて、最初は「貸すところなんてないよ」と言われました。でも、日本政策金融公庫のスタートアップ融資を知り、時間をかけてパルクールへの想いや教育現場に活かしたいというビジョンを熱弁しました。物件もなかなか見つからず、ようやく今の場所が決まった。木材を買ってきて、設計図を作りながら自分たちで作業しました。一つ問題を解決したらまた一つ出てくる、その繰り返しでした。

——店づくりを共にした仲間の存在は、ご自身の経営スタイルの変化にどう繋がったのでしょうか。

楠根さん:それまでは、人に頼るのが恥ずかしくてできなかったんです。自分が責任を持ってきた側だったから、責任を分け与えるのが苦手で。でも、お店を一緒に作る中で、初めて「協力してくれ」と言えるようになりました。自分がやった方が早いけれど、それでは体も頭も足りない。完全に投げるのではなく、自分の分身を育てるように一緒に作り上げる。仲間に意見を求め、聞くようになったことで、自分のこだわりや頑固さも少しずつ手放せるようになりました。今は「俺がオープンした場所」ではなく「みんなの場所」という意識です。

4. パルクールという「生き方」を循環させ、誰もが輝ける社会へ

——これからの「ニュータローズ」を、どのような姿に育てていきたいとお考えですか。

楠根さん:大規模な展開は考えていません。主軸は今の仲間とやっていきたい。ただ、上達した子供たちや本気でやりたい子のために、地方に大きな倉庫を借りて、アスリートが店長を務めながら練習し、お金も稼げるようなサイクルを作りたいと思っています。パルクール社会の中で、若い世代が「パルクールで食べていける」と思えるような、そんなコミュニティを盛り上げていきたいです。

—— 福祉や発達支援といった領域へのアプローチについては、どのような構想をお持ちでしょうか。

楠根さん:様々な特性を持っている子たちは、興味を持ちやすい反面、表現の場が少ないことが多いんです。サッカーのように「点が取れなければ終わり」という競技ではなく、パルクールなら「ちょっとジャンプして止まれた、それだけですげえじゃん」と認め合える。君の動きができている、という肯定感です。そういうパルクールのマインドを活かしたプログラムを作りたい。教育現場と対立するのではなく、学校ではできないことをサードプレイスである僕らが担う。お互いのフィールドの良さを子供たちが活かせる形が理想です。

——経営者としての楠根さん自身は、これからどのように成長していきたいですか。

楠根さん:変化に順応できる人間でありたいです。自分の考えに固執せず、対話を通じて気づきを得て、挑戦し続けること。自信過剰にならず、でも信念は曲げずに。ふと、小学4年生の頃の自分の気持ちに立ち返りながら、仲間や子供たちと共に成長していきたいですね。自由を受け取るだけの責任を持てる強さを、僕自身も、そしてここに来る子供たちも育てていけるような、そんな場所をこれからも守っていきます。

取材後記

楠根さんの口から語られる「サードプレイス」という言葉には、単なる居場所の提供を超えた重みがありました。それは、彼自身がかつて恩師に救われ、自由と責任のバランスを学んだ原体験に裏打ちされているからです。

取材を通じて私が確信したのは、楠根さんの経営が、まさに「IKIGAI経営」の実践であるということです。彼はパルクールを単なる「やり方(技術)」としてではなく、人が自ら幸せになっていける「あり方(姿勢)」を育むための素地としています。

印象的だったのは、彼が「人に頼れるようになった」と語った場面です。かつて一人で責任を背負い込もうとした若き経営者が、仲間と責任を分かち合い、共に場を育む喜びを知った。その「あり方の変容」こそが、ニュータに温かな空気をもたらしているのでしょう。

管理するのではなく、信じてひらく。光も影も、成功も失敗も受け入れる。そんな「場の経営」の本質が、ここには確かに息づいていました。人が自らの道を自分で作っていける強さを育む——その営みの尊さを、楠根さんの静かな、しかし力強い言葉から、改めて教わった気がします。


【企業データ】
企業名: NEWTAROS
事業内容 パルクール教室の運営、教育・運動プログラムの開発。4歳から60歳までを対象とした、最大6名の少人数制レッスンを提供
所在地 〒114-0013 東京都北区東田端2-5-13(田端駅北口から徒歩約6分) 
営業時間 9:00〜20:00/定休日: 木曜日 
従業員数 3名

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